2011.05 『公益法人』掲載寄稿 「公益法人のための資産運用入門 2 」 ~債券運用の本当の難しさ(2)~  

PDF版⇒ 『公益法人』2011.5月号「資金運用入門」②
◆インカム収入長期安定の試み
 とある法人の運用担当とコンサルタントのやり取りの様子である。

運用担当:「3年後には、リーマンショック時に高利回りで仕込むことができた債券の殆どが償還を迎え、それ以降のインカム収入が大幅に落ち込むことになります。できれば3年後以降も安定したインカム収入を確保したいと思います。」
小職:「3年後の金利、債券市場はどうなっているかわかりませんし、少なくともインカム収入が落ち込むことをある程度覚悟する以外にないのでは・・・」
運用担当:「運用担当としてはインカム収入を安定させる為にできるだけの努力はしたい・・と、思っています。例えば、今年度に償還する債券からは、なるべく3年後以降のインカム収入に寄与するような高利回りの債券を買うなど。」
小職:「そんな債券があるのですか?」
運用担当:「今、一部の証券会社から提案されているのですが、早期償還の発生しない元本確保型の仕組債はどうかなと考えています。かつての元本確保型の仕組債の典型である為替や金利差を参照するものは、もはやクーポンが出にくくなっている上に、早期償還条件を付けないと債券の組成は難しくなっていると聞いています。」
小職:「提案されているものは、従来のものと違うと?」
運用担当:「はい。新しい仕組債が参照するのは証券会社が独自に算出するインデックスです。そのようなインデックスには株式で運用するものから、ヘッジファンド、商品で運用するものまで様々で、インデックスの種類は選ぶことができます。それぞれの参照インデックスは全て、大きな価格変動を避けるように一定のルールで運用・計算されるそうです。クーポンは、【債券設定時からのインデックス値上がり分 ÷ 経過年数】の基本式に一定の掛け目を乗じた金額が一年毎に10年間にわたって支払われ、万が一、インデックスが値下がりしていても最終元本は確保されるという仕組みです。過去のシミュレーションでは平均クーポンは約5%。このような商品の中から上手く選べば、3年後以降の収入にも寄与する安全、安心な方法ではないかと思いますが・・・」
小職:「・・・・率直に申し上げるならば、訳のわからない参照資産の仕組みの債券を買ってでも、投資元本の10年塩漬けリスクをとるとおっしゃっているようにも聞こえます。その仕組み債のリスクを考慮すれば、10年国債で1.3%程度の収入を貰う方が、少なくとも長期的な収入の安定に寄与する確実性はより高いように思えますが。」

 このコラムを読んでいらっしゃる運用担当者の多くは、もっと注意深く運用されているに違いない。また、法人の事業遂行に愛情と責任を持たれているからこそ、より確実と解っていても、10年国債で1.3%程度の収入は選ぶことが出来ないという立場の担当者が大勢いらっしゃることも想像に難くない。社債や仕組債とも上手く付き合わなければ債券運用は出来ないのが現実であり、その並々ならぬご苦労とそれゆえの資産運用に対する自負には敬意を払わずにはいられない。
 しかしながら、債券には必ず発行体が存在し、その信用リスクを負わねばならないのと同時に、債券には必ずその償還が存在するのも事実である。償還乗換の際、利回り等の条件は以前より良いかもしれないし、悪いかもしれない。全く分からないのである。これが債券を再投資する際のリスク(再投資リスク)である。債券投資する以上、避けることのできないリスクなのである。
 近年の債券運用で本当に大変だと感じるのは、一つの債券が償還を迎える期間が短くなる傾向があること、その償還の度に、再投資する条件は厳しさを増し、より多くのリスクを負わなければ、運用収入は望めないということである。そして再投資の際のリスクの実質的判断は運用担当者のみなさんの双肩にかかっているのである。

◆再投資リスクと今日の債券運用
 さきほどの運用担当とコンサルタントのやり取りは続く。

小職:「そもそもリーマンショック時に高利回りの債券を購入する余力があったこと自体、幸運だったと思いますが、なぜ、償還がもっと先の長期債や早期償還の無い債券を買われなかったのですか。」
運用担当:「当時は金融危機の渦中でもありましたので、国債などよりも民間企業の発行する債券や株価連動債の利回りが圧倒的に高かったのです。しかし、そのような債券に長期投資するもの怖いので、5年前後で満期あるいは早期償還する可能性のあるものを中心にした訳です。」
小職:「確かにそうですね。民間企業の信用リスクは長期間にわたって取りたくはないですね。しかしながら、債券はすぐ償還を迎えてしまう。また、次々と償還対応を考え続けないといけない。いたちごっこのようなジレンマですね。」
運用担当:「かといって、10年国債では1.3%程度、20年国債でも2%程度です。仮に1~10年国債を等金額購入する10年ラダー運用でも利回りを加重平均すれば0.7%程度です。1~20年国債のラダーでやっと加重平均利回り1.3パーセント程度にしかなりません。民間の信用リスクを考えれば、超長期国債は比較的取得し易いこと、年度間の運用収入のバラツキも平準化されること、毎年の償還金で最長の国債を再投資するだけで良いということもわかります。ただ、それでは利回りを引き下げることになるのです。」
小職:「しかしながら、将来も国債の利回りが上がらない、変わらないとしても、10年ラダーを10年続けられたら加重平均利回りは0.7%程度⇒1.3%程度になる(10年経てば利回り1.3%の1年物国債を持つことになるのだから)。20年ラダーを20年続けられたら加重平均利回りは1.3%程度⇒2%程度になる(20年経てば利回り2%の1年物国債を持つことになるのだから)。長期間にわたって、安定的に、比較的高水準の運用収入を維持できるその確実性には勝ると思いませんか?」

 結局、このやりとりの顛末は、運用担当者に対して言わんとしたことはご理解いただけたものの、3年後のインカム収入の落ち込みを支える妙案は未だ見いだせないでいる。

◆インカム収入長期安定 理想と皮肉な現実
 債券運用において、再投資リスクを避けつつインカム収入を長期的に安定させる為には核となるのはラダー運用ではないだろうか。信用リスクが無視できるような発行体の長期債を、定期的に買い続けることが一番であるという意見に異を唱える運用担当者は少ない。
問題は、ラダー運用による最大限の運用収入を受け取れるのは、当初購入した最長の債券が償還を迎える年であり、それには10年、20年も要することである。また、その最大限の運用収入でさえ、現状において満足できる水準とは程遠い場合も少なくないことである。
 だからといって、運用収入に満足できそうな債券を探そうと思えば、信用リスクが気になり、おのずと長期債は躊躇される、早期償還(期限前償還)付きになってしまうなど、頻繁に再投資が訪れてしまう債券を選択せざるを得ない。再投資の度ごとに運用担当者は新しい金融商品、新しい運用リスクに次々向き合い続けることになる。しかも、投資家にとって良い条件の債券ほど償還され、あげくの果て、塩漬け債券だけがいつまでも償還されない。今日の債券運用におけるインカム収入安定の試みは、むしろ、インカム収入不安定化の原因をつくっているという皮肉な現実のように見えてならないのである。