2015.06 『公益法人』掲載寄稿 「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~今こそ、リーマンショック時の二の轍を踏まない為に(2)~<円建て債券運用で運用収入や元本回収の確実性を高める>

PDF版はこちら⇒『公益法人』誌2015年6月号「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門②」
◆財団の資産運用の核となる円建て債券運用の考え方
リーマンショック時の資産運用失敗の教訓を生かし、運用収入や元本回収の不確実性の芽をどのように摘むか? どのようなポートフォリオを構築すれば金融危機にも耐え、克服できる可能性が高められるのか?などについて先行されている財団法人Aのお話をご紹介したい。
財団A担当者:「当財団ではリーマンショック以前も現在も資産運用に対するスタンスは変わっていないのかもしれません。」
小職:「それは、どういう意味ですか?」
財団A担当者:「円建て債券が資産運用の殆どを占め、◎◎が発行体の債券を額面××億円という具合に取得し、それらの円建て債券は満期償還まで保有し、債券利子を受け取りつつ最後に償還金で回収するというスタンスです。」
小職:「運用収入と元本回収の確実性のスキームは、債券利息と償還金というシンプルな運用スタンスということですね。」
 財団A担当者:「そうです。それはずっと変わっていないのですが、その為の手段と考えた仕組債投資ではリーマンショック時には大火傷を被ってしまいました。利子収入は殆どが停止あるいは激減し、仕組債価格は30%~50%も下落。大半は処理が済みましたが、一部わずかに残った仕組債は未だに利払い、満期償還ともに不確実な状態です。」
 小職:「つまり、仕組債投資は、運用収入と元本回収の確実性を高める運用手段では無かったことが身を以って痛感された訳ですね。」
 財団A担当者:「財団全体の運用収益もリーマンショック前の半分以下になるなど、経費節減から事業規模の縮小までを余儀なくされ、法人運営に多大な影響を被りました。その反省を踏まえて、債券運用の手段については変更することにしたのです。」
 小職:「どのように、円建て債券運用の運用収入と元本回収の確実性を高めようとしたのですか?」
 財団A担当者:「日本国債、政府保証債、財投債、地方債などの国公債を中心とした円建て債券を取得することにしました。15年~20年債まで期間を延長すれば、以前はまだ、1.5%~2%ぐらいの利回りを確保することは可能でしたから。再投資資金は国公債に優先的に振り向け、超長期債のラダー運用を構築したわけです。」
 小職:「15年~20年債の超長期債は長すぎるという理由で取得を躊躇する公益法人も多いのですが?」
 財団A担当者:「財団運営上も『背に腹は替えられない』、円建て債券運用という範疇の中で運用収入と元本回収の確実性を高める手段として『消去法で残った手段』が超長期国公債のラダー運用でした。もはや社債も相当長期の信用リスクを引き受けなければ1.5%~2%ぐらいの利回りには届きませんでしたからね。」
 小職:「信用リスクと言えば、将来の日本国債のリスク(政府債務)を懸念する声もありますが?」
 財団A担当者:「勿論、そのようなリスクが仮に顕在化するとして、国公債より強固な財務内容(利払いと償還の確実性が高い)の民間発行体の選別が財団の担当者にできるか、財団のポートフォリオを構築するに足る十分な債券の発行量と流通量が有るか、更に発行体の十分な分散も確保できるか考えてみました。その結果、『◎◎が発行体の債券を額面××億円という具合に取得し、それらの円建て債券は満期償還まで保有し、債券利子を受け取りつつ最後に償還金で回収する』というスタンスの円建て債運用において、やはり『消去法で残った手段』が超長期国公債のラダー運用でした。」
 小職:「将来の日本国債のリスク(政府債務)については?」
 財団A担当者:「日本国債において、かつてのアルゼンチン国債やギリシャ国債のような利払いや償還金の削減や遅延を伴う債務再編まで起こるかは判りませんが、その可能性も全く排除しているわけではありません。ただ、そのような事態になれば、その他の社債などを保有していても既に無傷では無いように思います。また、そのような事態になる前に、インフレや円安などにより、利払いや償還金の実質的価値の低下が生じている可能性の方が高いでしょう。しかしながら、利払いや償還金の名目的価値に限って言えば、それでも国公債は、その銘柄選別の容易性と併せて、最も確実性の高い円建て債券の一つであると割り切って考えざるを得ません。超長期国公債ラダーはそのリスクに比べても、債券利息がどの程度、事業・運営予算に寄与しそうかが、長期間にわたり安定的にカウントすることができるという管理上のメリットも無視できないものがあります。」
 公益法人の事業・運営の為には、利子、配当その他収益計上できる(カウントできる)運用収益が不可欠であるというのは常識であろう。それらの運用収益の安定性は事業・運営の安定にも直結している。同時に運用元本は毀損させることなく、安定収益を生み出し続ける財政基盤として保持、保全されることが求められる。このような背景から、公益法人は保守的な円建て債券中心の資産運用を長年にわたり踏襲しているものと思われる。
皮肉なことに、今まで慣れ親しんだ「◎◎が発行体(格付けの高い)の債券を額面××億円という具合に取得し、それらの円建て債券は満期償還まで保有し、債券利子を受け取りつつ最後に償還金で回収する」というスタンスこそが、リーマンショックの時に運用手段の選択を誤らせ、公益法人に多大な損失を被らせたと言える。仕組債、仕組み預金などとネーミングや形態(格付けを含む)に惑わされないで、本質、すなわち運用収益と元本回収の確実性や安定性だけを基準に債券運用すべきであったのだ(運用環境はいつか必ず、思っている以上に急変するのだから)。
もしも、公益法人が「◎◎が発行体の債券を額面××億円という具合に取得し、それらの円建て債券は満期償還まで保有し、債券利子を受け取りつつ最後に償還金で回収する」というスタンスを踏襲するのであれば、財団Aの担当者の話は「円建て債運用における運用収益と元本回収の確実性や安定性という基準」からみれば非常に示唆に富むと思うのである(しかも、彼は相当な危機の到来も視野に入れつつ、あえて国公債での円建て債券運用を選択しているのである)。

◆円建て債券運用の補完の必要性とその考え方
その後も財団Aの担当者との話はつづく。
小職:「以前は1.5%~2%ぐらいあったという15年~20年国公債の利回りですが、近年は0.6%~1.2%程度まで低下していますよね?」
 財団A担当者:「さすがに0.6%~1.2%程度の利回りでは、運用収益の安定性は確保できるとしても、財団の事業・運営の安定性が確保できる水準には届きません。引き続き、財産運用の殆どは国公債による円建て債運用を維持しつつも、利子収入を補完してゆくことは避けられないところです。しかしながら、以前のように仕組債や仕組み預金には頼らないで、運用収入の安定性と元本回収の確実性を高める道を選択しました。」
 小職:「と、いいますと?」
 財団A担当者:「投資している割合は少ないですが、外債(為替ヘッジ外債を含む)、不動産(REIT)、内外株式の価格変動リスクをあえて引き受け、代わりに外債利息、不動産分配金、株式配当金など、円建て債券利息よりも比較的に高いインカム収入を安定的に受け取り、財団の事業・運営に必要な運用収益を補完しています。」
 小職:「運用収益が高いといっても、リスキーなのでは?」
 財団A担当者:「ETF(上場投資信託)などを利用して銘柄、通貨、地理的にも広域に分散投資できる手段を利用しますので、発行体固有の信用リスクや発行条件に縛られる仕組債その他の個別銘柄債券より、ある意味でリスクはそんなに大きく感じていません。また、外債、不動産、内外株式には運用収益の補完という役割の他に、インフレや円安が起こった場合に当財団が保有する国公債のリスク分散の役割をも含められるので、広義には運用財産全体のリスクは減らせたとも考えています(勿論、外債、不動産、内外株式を保有している局所だけを見てリスキーだと指摘する人はいますが・・・)。
小職:「確か、このことを指して「以前のように仕組債や仕組み預金に頼らないで、運用収入の安定性と元本回収の確実性を高める道を選択しました。」とおっしゃいましたよね? このお話、もっと詳しく話していただけませんか?」
果たして、このような外債、不動産、内外株式への投資が「運用収入の安定性と元本回収の確実性を高めるという基準」を満たすような運用手段(円建て債券運用の安定収益の補完、リスク分散の役割も担える)というのであれば、現在の皆様にも大いに参考にしていただける内容だと思う。次回、この財団Aの担当者のお話を更に詳しくご紹介したい。
以上