2015.05 『公益法人』掲載寄稿「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~今こそ、リーマンショック時の二の轍を踏まない為に(1)~ <イントロダクション> 

PDF版はこちら⇒『公益法人』誌2015年5月号「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門①」
(連載案内)
今号から「続、公益法人実務担当者の為の資産運用入門」を数回にわたり掲載いたします。法人資金運用管理コンサルタント・梅本洋一氏に、公益法人の資産運用、リスク等についてご寄稿いただきました。(編集部)

◆すっかり景色が変わってしまった運用環境
前回の「公益法人実務担当者の為の資産運用入門」は、『公益法人』2011年4月号~2012年6月にわたり掲載させていただいた。当時は、丁度リーマンショック後に発生した東日本大震災、ギリシャショック、ユーロ危機のまさに渦中であった。
あれから僅か4年ほどの間に公益法人を取り巻く資産運用環境はすっかり景色が変わってしまった。当時(2011年3月末)と現在の金利、為替、株価を比べれば一目瞭然である。
               2011年3月末     2015年4月16日現在
5年国債利回り         0.49%  ⇒    0.08%
10年国債利回り        1.249%  ⇒   0.325%
15年国債利回り        1.715%  ⇒   0.638%
20年国債利回り        2.035%  ⇒   1.07%
外国為替(¥/US$)       83.15円  ⇒    118.97円
日経平均株価         9,658円   ⇒    19,885円
東証REIT指数(配当除く)   1055.18  ⇒   1913.47
金融市場の気変わり早さと大きさには驚くばかりである。一言で言えば、当時でさえ異常に低いと言われていた日本国債利回りは増々ゼロに接近する一方、当時はずっと冴えない動きだった為替、株式、不動産は反転し、悲観論から一変、今では楽観論すら漏れ聞こえてくるような状況である。このような環境変化の中、公益法人もその資産運用と運用姿勢を変えざるを得なくなってきている。

◆公益法人の資産運用姿勢にも変化の兆し
 公益法人の資産運用といえば、保守的な債券運用を中心に行われ、安定した利子収入と満期償還の確実性を高め元本の保全を図るという基本的なスタンスを踏襲してきた。しかしながら、日本国債、財投債、政府保証債、地方債、社債などの利回りは既にゼロに程近くなってしまっているので、このような伝統的な債券運用では運用収入の確保は難しいのは自明である。そこで、伝統的な債券運用とは異なる他の運用手段を模索せざるを得なくなってきているというのが今日の公益法人資産運用の当然の成り行きであろう。例えば、一部の公益法人の間では、仕組債や仕組み預金など、「債券」や「預金」の形態は保っているが、実態は為替、株価、クレジット、その他資産のリスク・リターンに依存するという実質的には債券とは非なる金融商品に再び傾倒し始めたという話も聞かれるようになった。

◆「今こそ、その投資、よくよく考えて欲しい。」
 「今こそ、その投資、よくよく考えて欲しい。」 永く、コンサルタントとして金融市場、資産運用の世界から公益法人を見てきた者として感じるのは、公益法人の資産運用は今、重要な岐路に立っているのではないかということである。すなわち、いつか将来、リーマンショック時のような二の轍を公益法人が踏んでしまうのか、それとも否か、という分岐点ではないかということである。
 最近、どちらかと言えば悲観論が影を潜めてしまっている中、リーマンショックなど過去の金融危機の話はナンセンスであると思われるかもしれない。しかしながら、常に金融危機の到来を想定して取り組むことこそ、資産運用そもそもの最も重要な前提条件であり、今後の公益法人資産運用にこそ不可欠な姿勢であると考える。
 例えば、リーマンショック当時、仕組債投資に傾倒した公益法人も多く、2008年にあのような金融危機が起こるとは誰も思ってもみなかった。ところが、為替や株価はまさかと思うほど大暴落し、それによって殆どの仕組債の利払いが停止あるいは激減した。仕組債の価格自体も30%~50%以上下落(外債や株式に匹敵する大暴落)して、一部の銘柄についてはデフォルト状態に陥り、最終的な元本すら毀損する結果となった。公益事業の安定の為の収益確保と元本保全を建前とする債券運用で、そもそも仕組債運用を選択した時点で重大な矛盾を孕んでいたことが露呈したのである。

◆二度とリーマンショック時の轍を踏まない為に
 金融市場、資産運用の世界は常に変動を繰り返し、大きな変動も周期的に必ず伴うことは自明、宿命とも言える。リーマンショック時の金融市場を「負の大変動」と呼ぶとすれば、現に最近の4年間は逆に「正の大変動」と呼べるかもしれないぐらいの劇的な変化であることは冒頭にお示しした通りである。現在進行中の市場トレンドがいつまで続くか、いつトレンドが反転するか、誰も言い当てることはできないが、必ず起こると考える方が理にかなっているのである。
公益法人実務担当者としても、今、目の前で取り組んでいる資産運用・金融商品が、株価の大暴落、急激な円高、金利の急反転(債券価格の下落)などの際にも耐えうるものなのかをよくよく考えて意思決定していただきたい。利払いや元本回収の懸念が生じてしまう要素、条件が既に内在してはいないだろうか? そんな水準までの株価の大暴落、急激な円高、金利の急反転(債券価格の下落)などは起こらないだろう、起こるとしてもまだまだ先の話だ、などとご都合を優先した甘いリスク管理には陥っていないだろうか? リーマンショック時の損失は、そのような甘い想定で資産運用を行ったために被ったという教訓を今一度、想起して頂きたいのである。

◆次回以降の連載でお伝えしたいこと
 現在の日本国債等の利回りの現状では、公益事業の安定運営の為には、仕組債という手段を除外すれば、純粋な意味での債券運用からの収益のウエイトが少なくなってゆくのは避けられなのである。
しかしながら、少なくなってゆく運用収益の「補い方」とその「スタンス」を間違ってしまうと、逆に運用収入や元本回収の不確実性を高め、最終的に公益事業の安定運営そのものに支障を来すような要因を見逃し、それらを運用財産の中に簡単に取り込んでしまうということがリーマンショック時の失敗の教訓といえる。
結局のところ、現在の公益法人の置かれた状況(債券運用収入のウエイト低下、その他の利子補給の模索)は、リーマンショック前の公益法人の置かれていた状況と基本的には何ら変わっていない。また、債券以外の為替、株式、その他資産が比較的活況であることも当時と現在とでは非常に似通っている(当時は為替、株式のリターンを「債券利息に加工する」仕組債投資が人気だった)。
であるから、今のような時こそ、運用収入や元本回収の不確実性の芽をどのように摘むか? どのようなポートフォリオを構築すれば金融危機にも耐え、克服できる可能性が高められるのか?などについて、まず再確認、問題提起することが重要であると考えた。
次回以降、事例などを織り交ぜつつ判りやすくご紹介していきたい。

以上