2016.12 『公益法人』掲載寄稿 「公益法人資産運用への緊急提言」 ~事業遂行の為の公益法人資産運用は、現状を打破し、進化できるのか(4)~<予見可能な安定収益確保と財産保全、公益事業の安定遂行は諦めざるを得ないのか>

PDF版はこちら⇒『公益法人』2016年12月号「公益法人資産運用への緊急提言④」
◆前回のコラムのおさらい
前回のコラムでは、様々な金融市場平均指数(ベンチマーク・インデックス)やそれらと同様の価格変動特性や利子配当利回りをトレースすることを目指すETF(上場投資信託)などのパッシブ運用と、B法人における投資方針の策定を含む運用手続きについて詳しく紹介した。
世界の様々な金融市場平均指数をトレースすることを目指す数多くのETF(上場投資信託)やインデックス・ファンドが存在しており、B法人の政策ポートフォリオ運用の実態でも紹介したように、世界経済における各種金融市場と同等の銘柄分散と通貨分散が図れるようなローコストかつ透明性の高いETFなどに組み入れを限定することで、個々の金融商品の価格変動の特性や利子配当利回りをそれぞれ市場平均値と同程度にすることができるのであった。
 それに対して、旧来型の公益法人資産運用において典型的な個別銘柄投資では、利子配当利回り、運用元本保全、運用の継続性などの不確実性が極めて高くなってしまう。それに比べて、ETFなどを通じた十分な銘柄数、通貨数に分散される金融市場全体で捉えた利子配当利回り、運用元本保全、運用の継続性は、安定性、予見性が飛躍的に高まるということであった。
更に、B法人では、年度毎に資産運用方針を書面で策定し、これを運用委員会や理事会などで審議、報告を行っている。これは、事務局にとっての運用業務の指針や引継ぎ資料として役立つだけではなく。役員を含む法人組織全体にとっても資産運用管理の透明性、説明性、一貫性、継続性の維持に大いに寄与しているのであった。
今回は、最終回として、B法人における投資方針に基づいた日常の運用実務オペレーション(事務局と理事長の業務の様子)について紹介し、本連載コラムを総括したい。

◆『資産配分比率』を基準に殆どすべての意思決定、運用執行、管理が完結
 旧来型の公益法人資産運用では、運用の結果・成果(運用収益や運用リスク)は、いつ、どのような金融商品で運用するかで決まると考えられている。だから、証券会社など金融機関からの投資情報や商品提案、それらの情報や商品の精査に運用実務の多くの労力と時間を割いている。これらの詳細を実際にさばいているのは、運用担当の役職員であり、彼らの能力や運、時の投資環境に大きく依存しての運用管理にならざるを得ない。役員会も実際には何が行われているかは知る由もないし、かといって、金融商品や取引とその経緯の詳細について直に説明されても判断することは難しい。更に言えば、そのような個々の投資情報や商品提案をさんざん精査して運用した結果、うまくいくこともあれば、上手くいかないこともあるというのが、厳しいかもしれないが、現実であろう。
一方、B法人においては、運用の結果・成果(運用収益や運用リスク)の大部分は、資産配分比率で決まると考えられている。資産配分比率を基準にして、殆どすべての意思決定、運用執行、管理が完結しているのである。金融市場平均指数(ベンチマーク・インデックス)の価格変動や平均利回り ≒ ETF(上場投資信託)などパッシブ運用の価格変動や利回りという関係性から、年度の資産運用方針書に記載された資産配分比率 ≒ 運用財産全体の運用収益や運用リスクの関係性を示すからである。
したがって、資産配分比率 ≒ 年度の運用執行・再投資計画であり、定めた比率まで該当するETF(上場投資信託)などを再投資すれば完結する。各種金融市場を代表するオーソドックスなETF(上場投資信託)などを取得する、あるいは既に保有するオーソドックスなETF(上場投資信託)などに追加配分すれば完了である。都度、新しい投資情報や商品提案の精査、検討する必然性が殆ど無い。(ETF(上場投資信託)などは原則、償還期限が無い。これも、新しい金融商品を償還の都度、精査、検討する必要性が激減した理由である。)
また、資産配分比率 ≒ 運用モニター、リスク管理の基準である。取得したETF(上場投資信託)などが上がっているか、下がっているかとかいう短期的な騰落の事実や、上がりそうだとか、下がりそうだとかの情報、担当者などの読みは全く重要ではない。平均利回り程度の利子配当が継続している限りは、市場と同程度の上下動は切りはせないものなので、これを許容、放置する。その代り、資産配分比率とその推移については細心の注意を払う。時間の経過とともにポートフォリオに含む特定の資産の構成比率(時価)が、大きくなりすぎていないか、あるは少なくなりすぎていないかを押さえることはポートフォリオの運用モニターとリスク管理の要である。ただし、これさえ押さえておけば、ほぼ完結する。
このように、資産配分比率 ≒ 運用の結果・成果(運用収益や運用リスク)の関連性を示しているので、事務局の運用管理にかかるオペレーションも最適化、効率化が図れていることが判る(*金融市場平均指数(ベンチマーク・インデックス)の価格変動や平均利回り ≒ ETF(上場投資信託)などパッシブ運用の価格変動や利回りという関係性がその背景にあるのは言うまでもない)。
さらに、理事長を含む役員にとっても、「資産配分比率」を共通の基準することで、意思決定したり、具体的な運用業務のオペレーションを容易に想像したりすることができ、監督する側からのメリットも大きい。
B法人では、資産運用方針書を年度毎に策定し、運用委員会や理事会などで審議、報告を行っている。方針書には、資産配分比率、資産配分の背景となる考え方、組み入れ可能な資産/組み入れ出来ない資産とその理由、運用モニター/リスク管理の方法などが明記されている。理事長を含む役員が、都度このような方針書に触れ、関与していることは大変重要である。
B法人では理事長に対して、事務局が運用執行の説明と決済を仰ぐ際には、例えば、「外債ETFを、方針書に記載の外債の資産配分比率▲%まで、金額にして✖✖億円まで取得したい」と提案すれば、それを受けた理事長は、定められた配分比率や方針書のその他の記載と事務局の提案とが矛盾しないかを中心に判断できるのである。
このようなやり取りが可能なのも、理事長が、平素から方針書や資産配分比率に触れ、関与しているからである。決して、いつ、どんな金融商品を買うかのような議論が中心とはならないのである。B法人においては、資産配分比率こそ、事務局のみならず、組織にとって、経済合理的で、中心的かつ共通の意思決定基準なのである。

◆公益法人の資産運用管理は、今後、何を「拠り所」とすべきか?
 巷では、6月の英国EU離脱に続き、米国トランプ大統領誕生に驚きの声が上がっている。また、昨年来から為替、債券、株式市場がこんなにも乱高下するとは想定していなかった公益法人運用担当者もかなり存在したのではないだろうか。「まさか、こんな異常低金利に陥るのであれば、もっと前に超長期国債でも取得しておけばよかった。」「こんなに為替が反転するのであれば、先の仕組債投資はもっと抑制しておけば良かった。」などと後悔の声も聞こえてくる。B法人では、こういった世の中の短期的な事象、“ノイズ”に右往左往することはもはや無い。
 残念ながら、今後の資産運用、投資環境について唯一はっきりしている真実は、①誰も将来に何が起こるかは絶対に知りえないことである。だから、②専門家の予測や見通しでさえ当てにならない、いわんや、素人であることの自認の有無の如何にかかわらず、②一公益法人の運用担当が上手く運用できる、トラブルを避けることが出来ると己惚れてはいけない。我々は、真実を受け入れ、もっと謙虚な姿勢で資産運用に望まなくてはいけない。
 具体的には、(1)超低金利が今後も相当長く続く、(2)経済の低成長が続き、信用不安が繰り返し起こる、(3)為替、債券、株式市場も予想外の大きな変動を繰り返す、などの最悪の想定をしながら資産運用管理に当たることである。
 そして、もしも、そんな最悪の状況に陥ったとしても、事業をサポートする利子配当収入が途切れない、比較的安定した状態を保つにはどう考えればよいか、運用元本が致命的なダメージを被らない、比較的小さな価格変動の保守的な資産運用を保つにはどう考えれば良いか、順を追って組み立ててゆくのである。
 このようなロジックで組み立てを進めてゆくと、資産運用管理の拠り所を何に置くべきかが絞られてくる。
第一に、より普遍的なものを運用管理の拠り所とすることである。流行りすたりが付いて回る個々の債券や金融商品や世の中の短期的な事象よりも、金融市場や市場平均利回りを拠り所にする方が普遍的かつ信頼性が高いとはいえないだろうか。
第二に、コントロールできないこと、コントロールできることを区別し、コントロールできることにのみ集中することである。相場が上がるか、下がるか、個々の債券などの金融商品が期待通りの業績、格付け、利払い・償還を維持してくれるかについて、投資家側からコントロール出来ることは何もない。しかしながら、資産配分比率(各金融市場の組み合わせ比率)はコントロールすることができる。期待する利子配当収入の水準、許容できる価格変動リスクのレベル、両者のバランスに応じて、投資家側で自由に決めることができるのである。
第三に、繰り返しになるが、日本国債や普通社債(できれば極力、避ける方が無難)を除き、個別銘柄で円債、外債、不動産(REIT)、株式は取得・保有しないことである。期待通りの業績、格付け、利払い・償還を維持してくれるかについて、投資家側からコントロール出来ることは何もないだけでなく、見通しやその後の管理を誤った場合に復元困難なダメージを被るリスクは、その期待収益に釣り合わないのである。一方、金融市場平均指数(ベンチマーク・インデックス)の価格変動や平均利回りと同程度の運用成果を追及するオーソドックスなETF(上場投資信託)などの方が、資産配分比率を基準として、長期的に運用管理を行ってゆくポートフォリオのパーツとしては相応しいのである(ファンド、投資信託の中には、コスト高いもの、投資対象がオーソドックスでない、特定の業種や資産に偏ったもの、ファンドマネージャーの手腕(銘柄選択や売買)に過度に依存して運用成果を上げようとするものなども数多い。このように、コストが高い、運用プロセス・内容が不透明、管理が難しい投資信託は予め避けた方が無難であろう。)

◆予見可能な安定収益確保と財産保全、公益事業の安定遂行は諦めざるを得ないのか
 さて、上記の、本連載コラムを通じてのテーマについてであるが、この問いに対する答えは、都度、個別の債券や金融商品の取得・保有に腐心を続ける旧来型の公益法人資産運用においては『YES=諦めざるを得ない』であろう。A法人のように、よりリスキーかつ複雑な金融商品に傾倒してゆくか、もしくはリスキーな運用収益追求を諦めるかのいずれかしかない。一方、B法人のように運用管理の拠り所を①金融市場全体(≒それをトレースするようなオーソドックスなETF(上場投資信託)などを活用)や、各市場への②資産配分比率とするような手法であれば『NO=諦めることはない』であると考える。安定収益確保と財産保全の両立は十分可能である。
 最後に、B法人が今の姿の運用管理に至った最も大事なポイントは、「なぜ」という問いであったことを皆さんに十分理解しておいて頂きたい。『将来のことは誰にも判らない』『最悪の事態だって起こり得る』『最悪の場合においても、予見可能な安定収益確保と財産保全、公益事業の安定遂行を維持する為には、何を拠り所として運用管理全体を構築・デザインしてゆくべきか』という本質を問うことによって、導き出されたものだということである。
 “・・・・最も重要だと考えている点は、彼らが「なぜ」を理解しているかどうかである。「なにを」「どのように」の理解だけでは十分ではない。」(ラッセル L. オルソン『Independent Fiduciary』より)
 「公益事業の安定遂行の為には、どのように資産運用管理について考えてゆけば良いのか?」 今後の皆様の益々の発展を祈願して、連載コラムの結びとしたい。    以上