コラム

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2025.05.12

法人資産の運用を考える(78) 機会損失という魔物

ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一

資産運用における機会損失は将来の財団・社団法人の運営や、学校法人の経営に取り返すことのできない損害・損失を与える。

つまり、過去にわたって、適切に資産運用していれば、受け取り続けられたハズの利子配当収入長期キャピタルゲインが得られなかったことを意味する。失った過去を取り戻すことは絶対に出来ない。このような機会損失リスクを放置し続けた場合、時に、将来の法人事業・経営を致命的な危機に陥らせる。

 過ぎたことは取り戻せないが、現在の法人の役職員は賢明な意思決定を心がけ、将来そのような状態に陥るリスクの軽減を努めることはできる。いわば、そのような意思決定を下す責任ある立場であることを再確認されたい。まずは、どのような行動が資産運用における機会損失となるのか、以下、自己点検していただきたい。

 【当面の支払いに必要の無い預貯金を放置し続ける】

特に、学校法人に顕著であるが、金融資産の50%近くを預金で取り置き続けていることが私学事業団の実施するアンケート結果でも明らかになっている。

例えば、某学校法人もそのような状態を長年放置した結果、近年の急激な少子化に伴う学生争奪戦で大幅な定員割れに陥った。この赤字欠損の穴埋めの為に向こう毎年何億円もの預金の取り崩しが続く状態になってしまった。長年預金になど取りおかずに適切に資産運用しておれば、過去の利子配当収入の蓄積分を今回の赤字欠損の穴埋めに充てられたであろう。少なくとも元々保有していた金融資産を大幅に減らすことにはならなかったろう。

このような機会損失の再発は避けなくてはいけない。

 【債券運用に過度に集中・固執する】

これは学校法人と財団・社団法人とに多く共通する傾向である(私学事業団のアンケート結果、公益法人協会のアンケート結果)。なぜ、この過度な集中・固執が、取り返しのつかない機会損失につながるかというと、そもそも債券運用は期待リターンが低い=インフレに弱いからである。

例えば、某法人は長年債券中心の運用を行ってきた。

しかしながら、過去から保有していた債券は近年の金利上昇で10年債は▲10%超、20年債は▲20%超も下落している。

おそらく満期償還までの今後10年~20年、「塩漬け=この状況から脱出することが困難な状態」が続くであろう(それらの債券は低利回りで価格下落したままの状態が続く)。

これも機会損失であり、将来の法人経営にとって大きなリスクである。

更に悪いことに、債券運用はインフレに弱い

いかに10年債で1.5%、15年債で2%、20年債で2%超の利回りが得られるといっても、現在の物価上昇2%超が続けば、債券運用の実質的なリターンはゼロか、マイナスである。

最近よく債券投資を積極的に再開しようとする法人の話を耳にするが、こんな債券ばかりに過度に集中・固執することは、10年~20年間も法人の運用益と運用元本と固定し、その両方を実質的な目減りリスクにさらすことになる。

賢明な判断・意思決定とは、とても言えないのである。取り返しのつかないリスク(機会損失リスク)は将来の法人健全経営を妨げうるのである。

このように、資産運用における機会損失とは、法人経営をじわじわと蝕み、気付いた時には取り返しのつかない状態に陥らせる「魔物」である。そうならない為の考え方については、拙著「非営利法人の為の資産運用入門(アセットオーナー・プリンシプル対応版)」を手に取って一読されてみることをお勧めする。

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