2025.10.10
法人資産の運用を考える(83) インフレ時代と資産運用の意思決定基準(3)
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
<インフレ時代と資産運用の意思決定基準(2)から続く>
インフレ時代の中で法人事業の持続可能性を高められるような、資産運用の意思決定基準について整理を続けたい。
消費者物価指数(総合)は、2022年度3.2%、2023年度3.0%、2024年度3.0%と3年連続で3%台での推移が続いている(直近2025年6月では前年同月比3.3%の上昇)。
預金は勿論、債券の利回りさえも物価上昇率と比べれば、実質的な利回りはゼロかマイナスということになる(2025年7月現在の国債利回りは、10年物=約1.5%、15年物=約2.4%、20年物=約2.5%、30年物=約3.1%、40年物=3.3%に過ぎない)つまり、債券に傾倒したのではインフレに勝つ確率、法人事業の持続可能性をいたずらに低めてしまうのである。
【預金・債券から株や不動産(REIT)への相応な割合の分散投資=消去法的な帰着点】
株や不動産(REIT)の特徴として、
①その配当収入を事業の為に使い続けたとしても、10億円の元本が将来10億円以上の評価へと価値が増えている可能性が出てくる。更に、
②配当自体も長期的に増配する可能性もある(これら①②の特徴が、株や不動産(REIT)は長期的にインフレ耐性があると認識されている所以である。一方、預金・債券は①②の特徴を持たない。故にインフレ耐性に劣るのである)。
ただし、個別銘柄で株や不動産(REIT)を保有することは避けた方が良い。
なぜなら、個別の株や不動産(REIT)は個々の企業の業績次第の側面が強くなり、必ずしも①②の特徴・効果が一定に得られるか判らないからである(そもそも個々の企業の業績のモニターなども法人の手におえるものではない)。つまり、当たりハズレの賭けの要素が大きくなってしまう。
【株や不動産(REIT)への分散投資の方法① ETF(上場投資信託)などを利用したインデックス運用】
インデックス運用とは、ETF(上場投資信託)などを利用して株式市場全体や不動産(REIT)市場全体を代表するインデックス(市場の時価総額の80%~100%をカバー)に分散投資する手法である。
この手法であれば簡単に、日本株式全体、日本を除く先進国株式全体、新興国株式全体、日本不動産(REIT)全体、日本を除く外国不動産(REIT)全体に国際分散投資ができる。
また、この手法は学術研究的にも実証研究的にも最も当たりハズレの賭けの要素が小さいことが示されている。
【株や不動産(REIT)への分散投資の方法② アクティブファンドなどを利用した委託運用】
アクティブファンドとは、株や不動産(REIT)の個別銘柄選択や売買のタイミングを計る裁量全権をプロのファンドマネージャーに与え、運用委託するものである(上場する株式や不動産(REIT)を投資対象とするファンドが多い。
また、銘柄選択や売買のタイミングを計る裁量全権を委ねるという意味では、非上場資産を投資対象とする私募リート、プライベートエクイティファンドなども広義のアクティブファンドと言える。
ただし、この手法は当たりハズレの賭けの要素が、インデックス運用に比べて、大きくなる。学術研究的にも実証研究的にもアクティブファンドの優位性を示す根拠に乏しいことには留意が必要である(詳細は『非営利法人のための資産運用入門』p198~p200を参照)。