2025.11.18
【財団法人・学校法人のための資産運用入門(10)】プライベートアセット
学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南
プライベートアセットを検討する法人が増えている背景
近年、弊社がご支援する法人様を含め、多くの公益・非営利法人から、プライベートアセットをポートフォリオに組み入れるべきかというご相談を受ける機会が増えています。
プライベートアセットとは、非公開市場で取引される資産群を指し、代表的なものとして以下があります。
- プライベートエクイティ(未公開株)
- ベンチャーキャピタル
- プライベートデッド(非公開ローン)
- 不動産
- インフラ投資 など
これらは公開市場の株式・債券のように頻繁に価格が公表されるわけではなく、評価額の変動が表面上は小さく見える点が、多くの法人が魅力を感じられている理由の一つです。
プライベートアセットは公益・非営利法人に適しているか
では、プライベートアセットは本質的に、公益・非営利法人にとって魅力的な資産なのでしょうか。
弊社は、必ずしもそうではないと考えています。
最も大きな理由は、「価格変動が小さく見えるだけで、実際には管理が極めて難しい」という構造的な性質にあります。
価格が“見えない”ことによる管理の難しさ
先日、世界的な大手運用会社が保有するプライベートデッドについて、全損処理の見込みが報じられました。
『ブラックロック、プライベート融資で全額損失か-評価の妥当性に疑問』 ー 2025年11月11日
注目すべきは、以下の点です。
- 9月末時点:額面通りの評価
- 10月末:突如として全損の見込みに転落
運用のプロフェッショナルでさえこのような案件を引き当てるという事実は、プライベートアセットの不透明性と管理の難しさを端的に示しています。
さらに重要なのは、「1か月前まで“健全”と評価されていた資産が突然無価値とみなされることがある」という点です。
公開市場のように価格が逐一反映されないため、投資家が気づかないところで価値が大きく棄損している可能性を常に抱えています。
したがって、プライベートアセットの「価格変動の小ささ」は、資産価値そのものが安定しているというよりも、「価値が十分に把握されていないために変動として表面化していないだけ」と理解した方が実態に近いと言えます。
流動性の低さという根本的なハードル
プライベートアセットでは、以下のような制約が一般的です。
- 満期前の途中解約ができない
- 途中解約が可能でも大きなペナルティが発生する
- 市場で自由に売却できず換金性が低い
こうした性質を踏まえると、一般的な公益・非営利法人との相性は必ずしも良くありません。
また、資産の健全性・リスクを適切に把握し続けるには、専門人材・十分な時間・高度なデューデリジェンスが不可欠となり、多くの法人にとって実務的負担が極めて大きいという点も看過できません。
まとめ:公益・非営利法人が慎重であるべき理由
プライベートアセットは、長期的な成長性・分散効果といったメリットがある一方で、
- 資産価値の把握が難しい
- 不意の価値棄損が起こり得る
- 流動性が著しく低い
- 管理には高度な専門性が必要
といった特徴を持ちます。
これらを総合的に踏まえると、一般的な公益・非営利法人にとっては、慎重な検討が必須となる資産クラスであると言えます。