2025.10.15
【財団法人・学校法人のための資産運用入門(9)】法人の資産運用関係者が持つべき視座
学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南
資金運用委員会でのお話や、弊社にお問い合わせをいただく法人様のお話を伺うと、「ファンドを購入するのは投資、債券を購入するのは安定運用」という慣例の中で資産運用を捉えておられる法人様が少なくありません。
また、ファンド・債券での運用を問わず、法人の運用委員会等の意思決定機関では、「どの銘柄を買うのか」、「どのタイミングで買うのか」といったことに大半の時間を割いていることが少なくないようです。
今回は、異なるものとして捉えられるファンド・債券による運用の共通点と、そこから生じてしまう共通の問題点を考えます。そして、そうした問題点に惑わされることなく、法人の資産運用に携わる方々が意思決定において本来持つべき視座とはどのようなものなのかを考えていきます。
ファンドによる運用と債券による運用の共通点
確かに、償還の仕組みや時価変動の会計処理の違いなど、2つの金融用品の異なる点は様々です。
しかし、ファンド・債券での運用のいずれも、「商品・銘柄の選定」に依存しているという根本的な点においては、共通した手段であると弊社では捉えています。
ファンドの過去リターンや債券の表面利率など、一見捉えやすい側面での指標に判断を委ねているという点では、運用の構造としては大差のないものなのです。
こうした運用の形においては、意思決定機関における主要な検討事項が「商品・銘柄の選択」および「タイミングの選択」になりがちです。
ファンド・債券による運用が抱える共通の問題点
ファンド・債券を問わず、このような運用の形による一番の問題は、「運用が常に“点の判断”となり、時間をまたいだ一貫性、すなわち再現可能な意思決定プロセスを欠いている」という点にあります。
実際のお話を伺う中で法人様が陥りがちな状況は、「運用委員会(をはじめとする運用についての意思決定機関)が、運用担当者、コンサル会社や証券会社などが持ち寄った〈有望と思われるファンド〉、〈利子利回りの良い債券〉等の選定をする場になっている」というものです。
多くの法人様では「どのファンドが良いか」、「どの債券を買うか」、「それらをいつ買うべきか」といった問いが、運用における意思決定の中心に据えられているのです。
法人の意思決定が本来あるべき姿
しかし、「商品・銘柄・タイミングを選ぶこと」は法人の資産運用における本来の目的ではありません。
法人として資金を預かり、その資金を様々なリスクにさらし運用する立場に課されるフィデュシャリー・デューティー(=受託者責任)の観点からより重要なのは、「どのような考え方に基づき、その考え方をブレさせることなく、どのように評価していくか」という仕組みを、法人として設計することにあります。
言い換えれば、法人による資産運用において重要なことは、「“安全・有望と思われる金融商品やタイミング”を選ぶこと」ではなく、「合理的で説明可能な判断を、長期にわたって継続的に行うことができる体制を維持すること」なのです。
運用の意思決定が将来も合理的になされるために
法人の資産運用、その担当者や役員に課されているフィデュシャリー・デューティーを果たすために、これら意思決定に関わる方々は、「〈点〉の判断の巧拙」ではなく「一貫した〈線〉の上で意思決定が可能な仕組みの設計」に重きを置くべきです。
将来にわたる一貫した意思決定体制構築への道のりは、その道中、法人が則ってきたそれまでの慣例的なやりやすさなどからは一時的に乖離する可能性があります。
そこで大切になるのは、関係者一同の視座を「いかに短期的なやりやすさを維持するか」ではなく「将来の役職員でも変わらぬ基準のもと合理的に意思決定を行うためにはどのような仕組みが適切か」という高さに揃えることです。
「点」ではなく「線」で運用を捉えることができるか否かは、法人としての運用内容、プロセス、ひいては運用成績の再現性に影響を及ぼし、結果的に法人やその事業の持続可能性に関わってくるのです。