2025.10.15
GPIFを運用事例として議論する④GPIFが恐れるリスク
粟津 久乃
前回はポートフォリオを決定させる要因の期待リターンについて説明しました。
今回からはリスクについて考えていきましょう。
リスクと一言にいっても、リスク許容度、標準偏差のリスク、最大下落幅のリスク等、様々なリスクがあります。
今回は、リスク全般における、GPIFの考え方を纏めていきます。
目次
◆GPIFが一番避けたいリスクは何か?
GPIFの業務概要書にはリスクの考え方の纏めとして、下記の文章が記載されています。
『GPIFが重視しているリスクは、「市場の一時的な変動による短期的なリターンの変動(ブレ幅)」ではなく、「年金財政上必要とされる長期的な収益が得られないこと」です。GPIFは、年金積立金の運用を長期的な観点から安全かつ効率的に行うため、様々な指標を専門的に分析し、市場の一時的な変動による短期的なリターンの変動(ブレ幅) にも配慮しながら、長期的な収益が得られないリスクを抑えることを重視した運用を行っています。』
この長期的な観点で安全かつ効率的に運用しなければならない状況は公益法人(財団法人、学校法人)も同様ではないでしょうか。
公益法人もGPIF同様に、長期的に収益が得られないリスクは抑える必要があります。
では【長期的に収益が得られないリスク】とは何でしょうか?
GPIFが行っているリスク回避の手法を見ながら考えていきましょう。
◆GPIFがリスクを避けるために行っていること
GPIFがリスク回避のために行っている手法を検証していくと、【長期的に収益が得られないリスク】が判ってきます。
①分散投資
GPIFより抜粋
『分散して投資を行っています。 GPIFが運用している資産は約250兆円と巨額の規模です。資産運用には「卵を一つのかごに盛るな(Don’t put all eggs in one basket)」ということわざがあります。性質や値動きの異なる国内外の複数の資産に分散して運用することにより、安定的な運用成果を目指しています。』
⇒分散投資の必要性は当然な考え方なので、ここで詳細は説明しません。
ただ、未だに、リスク管理をせず、全く分散投資を行わない法人を見受けることもあります。組織内で今一度、分散投資に関して、現状で法人の財産を毀損する可能性が無いのか、このままで良いのか、議論は必要かと感じます。
②ポートフォリオ運用
GPIFより抜粋
『長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していく方が、効率的で良い結果をもたらすとされています。 GPIFでは、長期的な観点から基本となる資産構成割合(基本ポートフォリオ)に従って運用を行っています。』
これは第一回のテーマで詳細は挙げましたが
『GPIFでは、基本ポートフォリオに基づき資産構成割合を適切に管理していくことが、運用リスク管理の中で最も重要であると考えています。』
と強く伝えていますので、是非、第一回もお読みください。
③債券だけではなく株式を適切に組み入れる
GPIFより抜粋
『日本の国債金利は、これまで長期的に低下傾向にありましたが、直近では上昇傾向となっています。一方、物価や賃金の上昇を踏まえると、国内債券を中心とした運用では、 年金財政上必要な利回りを確保することは困難です。株式は、短期的な価格変動リスクは債券よりも大きいものの、長期的に見た場合、債券よりも高い収益が期待できます。GPIFでは、株式を適切に組み入れて運用することで、国内外の企業活動やその結果としての経済成長の果実を 「配当」及び保有株式の「評価益」という形で取り込むことにより、最低限のリスクで年金財政上必要な利回りを確保することを目指しています。』
『債券だけではなく』=債券だけに投資しては、前述の【長期的な収益を得られないリスク】がある。国内債券を中心に据えた運用では資産価値が将来に渡って担保されないリスクがあるということです。
『株式を適切に組み入れる』=物価や賃金上昇が起こる中、長期的に資産価値を相応に維持するためには、株式を一定程度入れる必要性があるということです。これも【長期的な収益を得られないリスク】を避けるためには、必要とされています。
GPIFが最も恐れる一番のリスクを避けるためには、国内債券中心の運用ではなく、株式を適切に運用する必要性を語っています。
皆様の法人の資産はいかがでしょうか。
④国内だけではなく、外国の様々な資産にも投資をする
GPIFより抜粋
『例えば、市場の変動により資産価格が一時的に下落したとしても、その後、再び上昇すれば、長期的には影響がありません。しかし、場合によっては、当初の想定よりも長期間にわたり、資産価格の下落が継続することもあります。 逆に、特定の資産価格が継続的に上昇を続けた場合に、その資産を保有していなければ、収益獲得の機会を逸してしまうことになります。 GPIFは、国内だけではなく、外国の様々な種類の資産に分けて投資することで、収益獲得の機会を増やし、世界中 の経済活動から収益を得ると同時に、資産分散の効果により、運用資産全体の価格の「ブレ」を抑制することで、大きな損失が発生する可能性を抑える運用を行っています。』
⇒国内だけに投資をすることに対しても、批判的であることは明確です。
投資から得られるはずの機会損失についても良く議論される必要があるでしょう。
利益を追求する法人ではないから、と感じている法人担当者もいるかもしれません。しかし、ここ数年の3%を超えるインフレ率を考慮すると、実際の運用成果は本当に妥当?でしょうか。
資産運用の方針の決定はその場にいる皆様で行うために、勝手な個人の思い込み、従来からある慣習等で意思決定されることも少なくありません。
未だに大量の債券をメインに運用を行う組織が多いでしょう。
法人の意思決定において、こういったGPIFのようなスタンダードな思考を皆様が今一度、よく読み込む必要があるでしょう。
次回からは更に深くGPIFのリスク管理について解説していきます。