コラム

column

2015.11.30

「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~今こそ、リーマンショック時の二の轍を踏まない為に(8)~ <繰り返し起こってきた危機、いつ来るかもしれない危機に備えたいくつかの留意事項>

リーマンショック時の二の轍を踏まない為に梅本 洋一

◆本連載コラムの最終回を迎えるにあたって

前回コラムは、どんな逆境でもブレない投資方針、強固な投資方針の源泉についてお話しした。その前提とは、①資産運用においては、何が起こるかは絶対にわからないということ、、②自分だけは上手く運用できると絶対に過信しないこと、また自分が資産運用の素人だと自認している場合でもその道の専門家と考えられている第三者の能力でさえ過信ないということと常に謙虚に構える、あるいは腹をくくる、開き直ることだと申し上げた。更に、誰も判り得ないからこそ、予め投資を分散しておく。そもそも信用できる確たる情報、能力など、誰も持っていないからこそ、予めグローバルに銘柄分散、通貨分散、地理的分散して資産運用の内容・特性を経済、市場全体の特性とその長期的な効果に重ねておく。これらのことは唯一、どんな組織においても応用できる、ブレずに終始一貫した運用管理を継続してゆく為の現実的な運用戦略の出発点だと申し述べさせていただいた。


さて、「今こそ、リーマンショック時の二の轍を踏まない為に」をテーマに連載していただいたコラムも今回で最終回である。最後に今後の投資環境を見据え、公益法人の資産運用におけるいくつかの私見、留意点を述べさせていただきたい。

◆たまたま、、、、上昇した資産価格の幸運を除き、法人資産運用の状況は4年前と不変

  1. 1.超低金利が今後相当長く続く可能性
  2. 2.信用不安も今後相当長くくすぶり続ける可能性
  3. 3.債券運用の難易度が増す。長期にわたる運用収益の低迷・漸減も避けられない可能性
  4. 4.資産の取り崩しや事業の縮小を常に視野に入れなければいけない可能性

以上は、4年前の『公益法人』(2011年12月号)に掲載していただいたコラムで指摘した法人資産運用の留意事項である。


まず当時から現在までを検証してみたい。「1.異常低金利の継続」、「2.国家財政・債務の悪化やその他局地、局所的な格下げ、デフォルトの発生」、「3.伝統的債券(円建ての国公債や社債など)では最早、運用収益と呼べない低水準。更に長期債、超長期債の信用リスクの判断が非常に困難な状況(社債のみならず国公債でも同様)」というように1.~3.について4年前と現在とでの留意点は何ら変わっていない。一部の運用担当者の間には未だに金利上昇を期待する向きもあるが、現在の主たる債務者である国家の財政状況、経済動向を鑑みると急激すぎる金利上昇は全体としてマイナス効果を招く恐れの方が大きい(僅かの利上げ見込みで大騒ぎされている米国をはじめとする欧米諸国も大勢は似たような状況であるのではないか)。金利上昇はこれらの利払い費用や債務残高の更なる膨張に直結し、周辺の民間企業や家計の経済活動にも悪影響を与える。民間企業や家計による相当大きな需要に裏打ちされた経済の成長軌道への回帰が明確にならない限り、健全な金利上昇は見込めないのではないだろうか。一方、不健全な金利上昇とは、近年のギリシャなどで起きたような状況を指す。名目の金利がいくら上がっても、モノやサービスの価格上昇に追いつかない。貨幣価値の減価、国家の信用リスクの顕在化を意味する。


さて、「4.資産の取り崩しや事業の縮小を常に視野に入れなければいけない可能性」についてはどうだったか。結果、大きく2通りのタイプの法人に分かれたようである。


一つ目は、伝統的な債券運用(国公債、社債など)をずっと継続してきている法人。これらの法人は金利低迷による運用収益の漸減が顕著であり、資産の取り崩しや事業の縮小に追い込まれた、あるいは、それがいよいよ間近に視野に入ってきている。


もう一方のタイプは、最近の円安や株高やその他資産価格の上昇(変化)の機会を運用収益に転化することに一時的に成功している法人である。資産価格の上昇時に乗じて、外貨建て債券、不動産(REIT)、株式などを取得した法人の数は、小職の当時の見込みを上回った(ただし、これらの資産価格の上昇に乗じて、たまたま投資に踏み切れたので、価格下落リスクについては、十分な覚悟、備えと組織コンセンサスがあるとは言い切れないケースが多い)。


更に驚いていることは、仕組債を新規に開始した、あるいはリーマンショック以来再開したという法人の数が、小職の当時の予想を遥かに上回っていることである(仕組債は構造上、債券と言う形態を隠れみのにして、為替、株価、金利、クレジットなどの価格変動(あるいは価格レンジ)を運用収益(債券利息という名目)に転化しているに過ぎない)。これらの法人は一時的に運用益があがっているが、為替、株価、金利、クレジットなどの資産価格が下落に転じた場合、法人の財政・事業の状況も一変させてしまうリスクをはらんでいる。


仕組債や外貨建て債券、不動産(REIT)、株式などで現在稼げている法人も、たまたま、、、、起こった資産価格の上昇に便乗して一時的に窮地をしのげているに過ぎないのではないか。今般の資産価格の上昇が無ければ、伝統的な債券運用(国公債、社債など)を継続した法人同様、とうの昔に法人の財政・事業はシュリンクしてしまっていたのではないだろうか。あるいは、資産価格の上昇に今後転機が訪れたら、簡単に崩壊してしまうような脆い土台の上で行われている綱渡り的な、、、、、運用管理なのではないだろうか。丁度、塩漬けのデッドストックと諦められていた多くの仕組債が近年、利払いを再開したり、早期償還したりした。しかしながら、もしも、それが無かった場合の法人の財政・事業の状態がどんなものになっていたかを想像していただきたい。気まぐれな資産価格の変動がたまたま、、、、味方してくれた、運が良かっただけのことである。そして更に、現在また相も変わらず運任せの無責任な資産運用管理で法人の財政や事業を危険にさらしているのだとしたら、その姿はリーマンショック以前の法人資産運用の姿と全く重なる。


要するに、現在でも本質的には当時と全く変わっていない。法人資産運用に当たっては前述の1.~4.の事項について引き続き留意されることを強くお勧めする。

◆繰り返し起こってきた危機、いつ来るかもしれない危機に備えたいくつかの留意事項

  1. ①仕組債、社債・劣後債、その他、個別銘柄投資(信用リスク)には厳重注意。今後は日本国債への特別扱いも慎重に。
  2. ②分散投資(グローバルな銘柄分散、通貨分散、地理的分散)を運用の基本戦略に。政策的な資産配分比率などを明記した投資方針書(計画書)で運用管理の透明性、説明性を高める。
  3. ③分散投資に係るコスト(販売手数料、信託報酬、ファンドラップ口座管理料など)にも意識を高く。たこ足配当投信など異常に高い分配金にも留意。内容をよく理解できないのに専門家に運用や管理を丸投げしない。

金融危機やショックは繰り返し起こってきた。今後も繰り返されることは予想に難くない。また、個別銘柄、個別の発行体、経済主体が突然おかしくなる、あるいは徐々に衰退してゆく現象も繰り返されてきた。時には、これまで絶対安全だと思われていた債券や発行体でさえ、それを免除されている訳ではないことは歴史が証明している。考えられる限りの最悪の想定をしながら、最善の成果への手段を探すのが資産運用管理の王道ではないだろうか。


まず第一に、個別銘柄のリスクが顕在化した場合のダメージはとても大きなものになると肝に銘じておくべきである。仕組債、社債・劣後債、その他、個別銘柄への投資には厳重注意。消去法的な理由から日本国債が最後に残るものの、利払いと償還の原資を特定の経済主体に依存する個別銘柄であることは免れていない。できれば、今後は国債といえども特別扱いはぜず、外国の国債や投資適格債に為替ヘッジをつけて分散を検討するなど慎重に取り扱うことをお勧めする。


第二に、分散投資(グローバルな銘柄分散、通貨分散、地理的分散)に勝る基本戦略を見出すことは現実的に困難である。分散投資によるリスクマネジメントと収益獲得との両面において、個別銘柄投資の場合より確率論的にも実証研究的にも優れていると認めざるを得ない。そして、それぞれが既に分散投資されている各種資産で構成されるポートフォリオであることが大前提であるが、政策的な資産配分比率などを明記した投資方針書(計画書)を作成されることをお勧めする。外債、不動産(REIT)、株式などを運用担当の気まぐれな思い付き、相場観で取得、売却する運用管理とは一線を画すことになり、組織としての透明性、説明性の向上にも繋がる。


第三に、分散投資を行うための手段を選ぶ際には、投信などのコスト(販売手数料、信託報酬、ファンドラップ口座管理料、その他ファンドの運用管理に伴う費用など)にも意識を高く持つべきである。コストは必ずリターンを押し下げる圧力として作用している。割高なコストに見合う卓越したリターンを将来も実現できる確からしさなどが説明できないといけない。それが判らない、疑わしい場合は、世界の債券指数、不動産(REIT)指数、株価


指数などに連動するように作られている運用コストの廉価なETF(上場投資信託)などを用いて、各市場平均並みの安定収益(債券利息の補完)と中長期的な元本保全を狙う戦略を選択すべきである。また、異常に高い分配を行う投信などの名目リターンに惑わされてはいけない。内包する原資産から生じる利子配当の水準以上に分配金を払い出すたこ足分配投信であるか、通貨選択型と呼ばれるオプションの売り代金で分配金が水増しされている投信であるかの可能性が高い。いすれのタイプの投信も市況下落時には元本や分配金の激減リスクが大きく、市況回復時においては回復が鈍くなる傾向が強い。安定収益と元本保全の両立を志向する法人の運用手段としては不適格である。近年、投資家アンケートなどを元に、資産配分比率やそれに含まれる投信を専門家にお任せするポートフォリオ・サービスも登場しているが、提示された資産配分比率の意味やその前提条件、また個々のファンドの内容をよく理解できないのに専門家に運用や管理を安易に丸投げしないようにも気を付けたいものである。市況が良い間、意識されることは稀かもしれないが、特に市況が悪くなった時に、最終的な管理責任と説明責任を負っているのは任せた業者ではなく、法人とその運用担当であることを忘れてはいけない。


以上

ARCHIVES

2022年

2021年

2020年

2019年

2018年

2017年

2016年

2015年

2014年

2013年

2012年

2011年

2010年

2009年

2008年

2007年

2006年

2005年

お問い合わせ

CONTACT

ご記入内容をご確認の上、「送信する」ボタンを押してください

御法人名(必須)

御担当者様(必須)

郵便番号

住所

電話

FAX

メールアドレス(必須)

メールアドレス(※再度入力)(必須)

お問い合わせ内容(必須)