コラム

column

2019.12.11

学校法人資産の運用を考える(7) 法人を取り巻く制約条件と、資産運用との整合(3)運用担当業務の変質

学校法人の資産運用を考える粟津 久乃

50年前の法人の担当者が、今日の資産運用業務にタイムスリップしたならば、非常にショックを受けるでしょう。それは現在の金利が異常に低いということだけではありません。判断すべき金融商品の選択肢が驚くほど多く、しかも、ころころと変わり続けることに、驚くでしょう(様々な金融商品が次々と、手を変え、品を変えて提案され、それ自体が流行り廃りを繰り返しているのです)。

なにしろ、50年前は、預貯金や日本国債、上場株式以外の運用手段がほぼ存在しなかったことは前回のコラムで紹介した通りです。保守的な法人運用において、上場株式を投資対象とすることは難しいので、預貯金や日本国債などしか残らなかったのです。預貯金や日本国債など以外に無いのであれば、金利が高くなったり、低くなったりすることに甘んずる他ないのです。更には、預入金融機関や日本国債などの信用リスク、発行体リスクについて法人の担当者は注意を払う必要すら無かったのです。

さて、今日、現役の資産運用担当者やこれから着任する担当者が当たり前のように携わる業務は50年前に比べると、全く異質なものであります。まず、金融商品や発行体の種類は比べ物にならないほど膨大であります。まさに、金融商品ビックバンです。しかも、どの金融商品や発行体を選ぶかで結果が決まります(一方、預貯金や日本国債では結果にそれほど差は生まれません)。さらに、一旦、金融商品や債券を選んだ後も、発行体の業務や格付けなどの信用リスク、為替、株価、金利など世の中の変動・変化に注意していないと、途中で結果が異なってくる可能があります(一方、預貯金や日本国債では結果にそのような差は生まれません)。

つまり、今日の運用業務は「何を買うか」「いつ買うか」「買った後どのように管理するか」という責任の一端を担わせる業務へとすり替わってしまったのです(預貯金や日本国債の金利低下が顕著になり始めた20年前くらいから業務内容は少しずつ変わり始め、今では完全に変質してしまったようです)。もっと言えば、「何を買うか」「いつ買うか」「買った後どう管理するか」を今日、業務としているのは、法人の運用担当者とプロのファンドマネージャーぐらいです。今日、対処することが当たり前に思われる業務に50年前の担当者がタイムスリップしたとしたら、非常にショックを受けたとしても全く無理はない状況なのです。

このように、運用のプロでもない法人の担当者にファンドマネージャーまがいの業務まで担わせるのは早晩、持続できなくなるでしょう(しかも、法人の会計や決算という制約の中で行わざるを得ない資産運用は、プロのファンドマネージャーのそれよりも自由度が低く、非常に難しい業務であります)。

要するに、個々の金融商品、発行体の業績や格付けなどの信用リスク、為替、株価、金利など世界の中の変動・変化について、その時々の「当てっこ」を運用担当に求め続ける業務はもはや持続することが難しいでしょう。その時々の「当てっこ」に依存しない、より普遍的で一貫した土台の上に築かれた運用業務への転換が、法人にとって急務になってきたのです。



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