コラム

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2011.11.30

「公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~運用管理体制(1) 運用担当者の能力~

『公益法人』資産運用入門梅本 洋一

◆運用担当者の能力 ~運用管理体制における実務の起点~

債券オンリーの資産運用であれ、債券運用に外債や株式、不動産(これらを投資対象とする投資信託を含む)をミックスした資産運用であれ、そのリスク・リターンの判断基準、投資対象がキャッシュ(利子、配当、キャピタルゲイン、回収元本の原資)を生み出せなくなる状況をいかに避けるかという視点が極めて重要になる。投資候補となる金融商品の収益の源泉(利子、配当、キャピタルゲイン、回収元本などのキャッシュを生む源)について、まず謙虚かつ注意深く、大局的に考察できるか否かは今後の公益法人の資産運用にとってますます重要になってくると思われる(詳細は前回のコラムを参照)。
例えば、最近顕著であるギリシャショックに端を発した欧州ソブリン危機は、一般にソブリン債より更に格下であり、ソブリン債の大口保有者である場合がおおい金融機関の資金調達コストやバランスシートに大ダメージを及ぼし易い。こんな考察が出来たなら、ソブリン危機⇒金融機関危機の図式は予め容易に連想できたのではないだろうか。
今般の欧州危機は一部の米国金融機関に波及の兆しをみせたものの、目下(2011年10月時点)のところ欧州域内に留まっており、本邦金融機関の株式、債券への影響はみられないのは不幸中の幸いではある。しかしながら、日欧米の公的債務はいずれも積み上がっており、巨額の債務が解消されるには長い年月を要する一方、市場の評価は一夜にして豹変しうることを肝に銘じて、公益法人も今後の資産運用に当たった方が賢明そうである。
このように今後も難しい局面が続くことが予想される運用環境ではあるが、そもそも公益法人の資産運用を左右する“起点”は運用担当する役職員の能力ではないかと考える。

◆運用担当者に求められる2つの能力

まず、運用担当者には資産運用についての専門性、次に、それを伝えるコミュニケーション力という2つの能力が求められる。組織と取引金融機関らとの唯一の交渉窓口であり、現実的には他の役職員はそれらの交渉に関与しない。したがって、資産運用について一義的な判断を下したり、その説明を求められたりするのは運用担当者になる。

◆資産運用についての専門性 ~潜在リスクの認識とマネジメント能力~

資産運用についての専門性というと「金融や商品の知識に明るい」とか「運用が上手い(インカムが稼げる)」とかいった表面的なことの方が連想されがちなのではないだろうか。勿論、金融の環境や商品を咀嚼した上で、有る程度のリターンが要請されるのは言うまでもない。しかしながら、求められる専門性の本質とは、現時点で未だ顕在化していないリスクを認識して、それらをマネジメントする能力である。
リスクマネジメントの命題は、すなわち、長期にわたる公益事業をサポートする利子・配当を途切れさせないように努めることであり、償還やキャピタルゲインでの元本回収が困難な状態に陥らないように注意することである。このようなリスクマネジメントの命題に対して、運用担当者は未だ顕在化していないリスクを含めて思案を巡らし、何らかの策を講じなければならない。
しかしながら、金融商品を単に、①円建てあるか外貨建てであるか、次に債券に付与される信用格付けのランクが高いか(以上、債券の場合)、さらに、②その商品の世の中の定評、評判を勘案し、なるべく利回りや運用期間の優位性があるか(以上、債券、外債、不動産、株式において共通)という目に見える表面的な基準のみで銘柄判断していては、その時点では目に見えない潜在的なリスクの殆どは見過ごされてしまうのである。
そうならない為にも、少なくとも「国債や市場平均を上回る利子・配当を上回る利回りはタダでは得られない筈である」という厳格な投資尺度を当てはめて吟味してみることや、検討している金融商品の「収益の源泉(キャッシュ=利子、配当、キャピタルゲイン、回収元本の源)は何か」、「それらに支障を来し得る要因はどんなことが考えられるか」について注意深く洞察をめぐらせてみることなどは益々重要になってくる(詳細は前回のコラムを参照)。
このように運用担当者としては、金融商品の信用格付けや世の中の定評、評判などには表れない、“目に見えない”潜在的なリスクをも認識し、整理できることが求められるのである。

◆資産運用担当のコミュニケーション力 ~潜在的な運用リスクを伝える能力~

“目に見えない”潜在的なリスクをも認識し、整理することができたなら、次に運用担当者に求められるのはそれらを解り易く、上手に説明するコミュニケーション力になる。運用担当者が“起点”となり、リスクについて“発信”しなければ、資産運用実務に直接関与しない代表理事、理事会をはじめとする他の役職員はリスクの存在すら認識することは無いであろう。全く認識していないとは言わないまでも、「リスクが無い訳ではないようだが、運用担当の方でよろしく上手に頼みます」という曖昧な態度のまま放置されてしまう。
資産運用担当者のコミュニケーション力による適切な“発信”が無ければ、組織の資産運用にはリスクは存在しないものであるとか、あるいはリスクは存在しても上手く切り抜けることができるものであるとかいう間違った前提、幻想の中に陥らせてしまい易い。潜在しているリスクが何であるかを明らかにできないのであれば、組織としての対応も難しい。高い信用格付けであること、元本確保型商品であることや、世の中の定評・評判、利回りに基づいた運用説明、報告だけでは組織の他のメンバーに本当のリスクは伝わらない。
結果的に、未だ得体の知られていないリスクを運用担当サイド限りで抱え込んでしまうことになりかねないのである。

◆運用担当職の今後の課題

運用担当者が資産運用の潜在リスクを認識し、マネジメントする能力とそれらを解り易く、上手に説明するコミュニケーション能力の重要性について述べてきた。結局のところ、彼らが認識できないリスクや伝えられないリスクについて、組織はマネジメント出来ないのである。
加えて、多くの公益法人では運用担当の役職員の人事異動というネックが存在する。すなわち、往々にして非運用部門から着任する新運用担当者は、いきなり運用実務の中に放り込まれ、そこでのOJTを通じて個人経験やノウハウを積み上げてゆく。しかしながら、数年後、彼は再び非運用部門へと異動となり、同時に別の新運用担当者が非運用部門から着任するということを繰り返すのである。このような構造も運用担当者の能力が蓄積、継承される障害となっているに違いない。
債券運用をはじめ、近年ほど先行きについての不確実性が高まるようなことがなければ、かつてのように“目に見える”信用格付けや世の中の定評、評判などという判断基準に基づいた資産運用で十分事足りていたことだろう。しかしながら、これからの運用担当者は、“目に見えない”潜在リスクまで十分配慮しなければ、資産運用が足元からすくわれかねないのが今日の公益法人の資産運用なのではないだろうか。

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