2026.09.14
法人資産の運用を考える(94) 組織としての「続ける力」をどう設計するかという経営課題
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
2025年4月に施行された改正公益法人法により財務規律の柔軟化が進み、あわせてアセットオーナー・プリンシプルの普及など、資産運用への向き合い方を後押しする制度的な環境も整いつつある。
ー資産運用をどう位置付けるかー
こうした流れの中で、多くの財団、社団、学校法人にとって、資産運用をどう位置づけるかが改めて論点となっている。法人が担う事業の多くは一過性ではなく、世代を超えて継続することを前提としている。だからこそ「資金をどう増やすか」あるいは「いかに(元本の)安全をキープするか」という発想だけでなく、「事業を長く支え続けるために、資産運用とどう向き合うか」という視点が、これまで以上に求められる。
資産運用においては、商品選びやタイミングの巧拙によって運用成果に再現性のある差をつけることは難しい。資産運用についての長年の理論と実証の蓄積が示してきたのは、再現可能な運用成果の源泉が「時間」、すなわち「長期にわたって株式市場、REIT市場や債券市場などに居続けることだ」という事実である。
この長期投資という目的を支えるのが、「市場全体への分散投資」を「低コスト」で行うことであり、この両者はあくまで長期投資を持続可能にするための手段である。
であるから、『事業活動を支え続けるための資産配分(株式市場、REIT市場、債券市場への配分比率)の設計と管理』が、法人にとって唯一かつ最優先すべき事項となる。すなわち、法人が最優先すべきは、優れた商品を探し当てることではなく、運用方針(事業活動を支え続けるための資産配分を含む)を、組織としてぶれずに設計、管理、メンテナンスし続けられる体制を持つことだろう。
ー如何にすればブレずに続けられるか―
しかし、この「ぶれずに設計、管理、メンテナンスし続ける」ことこそが、法人組織にとって存外難しい。理事や担当者の交代、意思決定の属人化、方針の合理的根拠が言語化されていないことなどにより、運用方針は少しずつ揺らいでいく。
ここで力を発揮するのが、投資方針書の整備や運用委員会・事務局の設置、理事会への定期的な報告や運用状況のモニタリングといった、組織としての合意形成の仕組みである。属人的な判断ではなく、組織の記録とルールに運用を委ねることで、担当者が交代しても方針は継続し、次の世代へと引き継がれていく。こうした仕組みは、特定の個人の経験や勘に依存しない、法人の「記憶装置」としての役割を果たすと言えるだろう。
実際、資産運用に関する意思決定の機会は、日常の事業運営に比べて限られている。だからこそ、市場が大きく変動する局面をあらかじめ想定した規程やルールを備えておくことが、担当者個人の心理的な負担を軽減し、長期方針からの逸脱を防ぐことにつながる。
あわせて有効なこと
外部の専門性、知見の活用である。その場合、最も重要なのは外部助言者の側の独立性である。つまり、金融商品のメーカーや販売会社などと金銭のやりとり、資本関係、人的な交流がないことが望ましい。金融機関や運用商品から独立した立場からの助言であって初めて、法人の利益だけを起点に据えた運用体制の構築が可能になる。独立した立場だからこそ、法人との間に、短期的な損得勘定を超えた長期的な信頼関係を築くこともできる。
法人資産の運用とは、つまるところ、一時的に、優れた運用成績を追い求めることや(元本の)安全性に固執することではなく、組織として「続ける力」をどう設計するかという経営課題である。