2024.04.15
法人資産の運用を考える(64) ポートフォリオの安全性とは? ~将来の法人経営の安全性を高めるようなポートフォリオという視点から~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
某法人は、株式ETF、REITETF 債券ETF、日本国債などでポートフォリオ運用を開始して、間もなく12年になる。
先日、その法人の監事からご質問を受けた。
それは、「財団法人として安全性の高いポートフォリオ資産運用を志向するのであれば、株式やREITよりも、債券の割合を高位に保ち、あるいは債券の割合をもっと高めた運用をすべきなのではないか?」というものだった。
直感的には、他の多くの人も同じように思うかもしれない。
債券は、償還時には、元本は返ってくるというイメージが強い。
それに比べると、株式などは元本保証ではないという意識が根強く残っていることも影響しているのかもしれない。
しかしながら、もう一つの事実は、この法人の12年間を経過したポートフォリオにおいて、18億円の含み益(受取った利子分配金を除く、ポートフォリオ運用元本全体の評価益)の殆どは、株式ETF、REITETFによる寄与なのである。
一方、債券ETF、国債は、通算すると、含み益どころか、マイナスの寄与なのである。
過去、10億円近くあった日本国債の含み益も4億円にまで縮小し、今後の償還時には確実に全てゼロとなる。
あるいは日銀の政策転換などが進めば、償還前に含み損に転落することもあるかもしれない。
確かに、短期的には、株式は大きく値下がりすることがあり、一般的に債券は株式ほどの下落は無いと考えられている。
だから、債券の割合を高位に保ち、あるいは債券の割合をもっと高めたポートフォリオ運用の方が、安全では無いかと考えがちである。
しかしながら、それは短期的な一面だけを見た結論でもある。
長期的に見れば、ポートフォリオ全体の価値を支えるのは株式なのである。
事実、この法人においても、近年値下がりを続ける債券価格をカバーして、ポートフォリオ全体の価値の維持・増大に貢献している。
つまり、債券は、短期的にみれば、安全性は高いように見えるが、長期的には、そうとは言えないのである。
一方、株式は、短期的な価格下落リスクだけをみれば、危険と言えるかもしれないが、長期的には、ポートフォリオの維持・増大に寄与する可能性が相対的に高いと言えるのである。
勿論、債券か、株式か、どちらという、一択の議論ではない。
あくまで、ポートフォリオの中での、それぞれの割合、バランスの問題である。
また、株式の短期的なリスクとは、価格下落そのものと言うよりは、むしろ、法人側の問題としての、価格下落に上手く対応できない、不適切な対応をしてしまうリスクではないかと考える(例えば、株式の価格下落時に、運用担当者が組織内に対して上手く説明できない、毅然と対応できない。役員が理解できない、感情的になってしまう。結果、資産運用に対する組織の不安・不信感を増幅させてしまう。そして、価格下落中に株式投資の割合を減らしてしまう、やめてしまう。あるいは、その後の価格回復時に株式投資を精算してしまう、など。)
組織として継続できるポートフォリオであることが大前提ではあるが、将来の法人経営の安全性を高めるようなポートフォリオが、結局、より安全性が高い、と筆者は考える。