2024.08.10
法人資産の運用を考える(69) 資産運用人材の育成・確保という問題 ~その問題の改善の方向性~
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
資産運用人材の育成・確保は、公法協の資産運用アンケート2023でも、その困難さについて指摘する法人の声は少なくなかった。
各々の法人が、
①インフレ、デフレ、その他環境変化を想定した全天候型のもっと十分に分散された投資ポートフォリオを実際にデザイン・構築し、そのデザイン通りにワークさせられる為に
②もっと合理的なモニター、リスク管理、評価を実行していく為に
資産運用人材の育成・確保という問題の改善の方向性について考えてみたい。
ポイントは、まず素人がファンドマネージャーの真似事をするのをやめて、「普通の人が常識を働かせることで、その仕組みを理解・管理できる範囲に留められるような運用管理の枠組み」にシフトしてゆくことである。
これが実現できれば、組織内で運用管理についての情報がより共有できるようになる=ガバナンスもより向上する。
また、役職員の異動に伴う業務引き継ぎもより容易になる。更に、育成カリキュラムも内容がより理解されやすいものとなる。
現在の労務人事の制約を全て撤廃あるいは大幅に改革することは現実的ではないだろう。多くの法人で資産運用専任の担当者を置くのは非現実的である。引き続き、他の業務と兼務しながら運用管理業務にあたるのが最も現実的であろう。また人事異動を無くすであるとか、資産運用の知識と経験のある者だけを選んで後任に据えるというやり方も難しいだろう。
以上のような制約条件下で、唯一改善できるとすれば、債券(特に社債、劣後債、仕組債等)、外債、株式、REITの個別銘柄での投資をやめることである。
そして、別の運用手段、別の運用管理の枠組みにシフトしていくことだろう。
そうすれば、個別銘柄投資が原因で現在引き起こされている問題(現実的、物理的に分散投資やリスク管理が十分に行き届いていない点、組織内の情報共有・ガバナンスが難しくなってしまう点、後任への引き継ぎが難しくなってしまう点)が一度に改善できる。
そして、育成についても、「普通の人が常識を働かせることで、その仕組みを理解・管理できる範囲に留められるような運用管理の枠組み」なのであれば、未経験の後任の運用担当でも常識を働かせることで運用管理の要諦を習得しやすくなる。
ファンドマネージャーのように個々の銘柄・発行体ごとに細々とした詳細情報をモニター、リスク管理しなければいけない責任から解放されるので、育成も比較的容易になると思われる。
これからの育成に必要な内容は、膨大な数の個別の発行体や金融商品についての知識よりも、
①理論と事実とデータに基づいた体系的な運用管理に必要な知識の習得に絞り込める。
また、膨大な数の個別の発行体や金融商品を取捨選択する能力ではなく
②分散投資されたポートフォリオ全体の資産配分をデザイン、マネジメントする能力の習得に絞り込める。
育成方法としては、外部の専門家・有識者や、法人資産運用の関連書籍・記事、関連セミナーから、そのような知識やアドバイスを得る機会を活用するなどが有力であろう。
より確度を上げる為には、運用計画、運用開始の初期時点で、上記のような情報、アドバイスを提供してくれる信頼できるコンサルや投資顧問の助言を利用して、法人の資産運用管理の改善をサポートさせるのも良い。
おそらく資産規模20億前後からそれ以上の法人であれば、費用対効果が十分期待できるコンサルや投資顧問も存在する筈である。