コラム

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2025.06.14

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(6)】女子大・短大・小規模大学の苦境からの示唆

学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南

 2024年、日本の合計特殊出生率は1.15前後まで落ち込んでいる(厚生労働省調査)にもかかわらず、本質的な改善に向けた議論や施策は、今一つ実を結ばない状況が続いています。こうした少子化の影響は大学経営を直撃しており、入試広報の強化、ブランド刷新、キャンパス再編など“学生に選んでもらう施策”に各法人がしのぎを削っています。


 しかし弊社は、これまで多くの法人が知恵を絞ってきた「選ばれる努力」と同じ重みで、「選ばれない場合を想定した備え」を整えることこそが、人口減少に直面する大学経営の現実的かつ非常に重要な選択肢であると考えます。その備えの核心は、保有資産を計画的かつ戦略的に運用し、学納金収入を補完する収益源を確保することにあります。特に短期大学や女子大学を多く含む小規模大学、さらには中規模大学にとって、抜本的かつ戦略的に資産運用へと舵を切るスピード感は、この先わずかこの先十数年、もしくは数年先の明暗を分けかねないほど重大な経営判断だと感じています。

 

小規模大学と「資産運用による収益底上げ」の必要性

1-1 小規模大学が直面する充足率低下という現実

 私学事業団の最新調査によれば、短期大学や女子大学を多く含む小規模大学の定員充足率は減少し続け、2024年度、88%の小規模大学が定員割れに陥っています。減少する受験者数を限られた学部やブランドで取り合う構図は年々鮮明になり、従来の広報施策だけで持ち直す余地は小さくなっているのが現状です。

日本私立学校振興・共済事業団『令和5年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向』より

 

1-2 規模別に見た痛点の違い

  • 大規模大学 は歴史的ブランドや学部構成の多様性から一定の集客力を維持し、競争優位を確保しやすい。
  • 中規模大学 は相対的にブランド力で及ばないものの、大規模志望者の“すべり止め”需要や地元志向層の受け皿として、まだ一定の学納金を確保できる余地があります。
  • 小規模大学 は 18 歳人口減少の影響をもっとも直接的に受ける領域であり、収益の先細りが最初に表面化し始めています。

 

 このように、規模が小さいほど経営の安定度は人口動態に連動して下がると考えるのが自然です。だからこそ、小規模法人は学納金がまだ確保できている、あるいは法人の現預金にまだある程度厚みのある今のうちに、資産運用という別のエンジンを立ち上げ、将来の余力を確保しておく必要があります。

 

1-3 “取り崩してから”では遅すぎる

 学納金収入が減り始め、赤字補填のために積立金を取り崩す段階に入ってからでは、資産運用に回す原資そのものが痩せ細っています。複利が効くまでには時間が必要であり、取り崩しが常態化した後では運用リスクを取れる余裕も、元本の厚みも失われます。したがって資金余力が残るうちに運用を開始することが決定的に重要なのです。

 

中規模大学を待ち受ける“次の波”

2-1 18 歳人口はまだ減り続ける

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、18歳人口は2025年の約109万人から、2035 年には96万人、2040 年には82万人へと減少が続く見通しです。ここまで急激な18歳人口の減少が起きるとすれば、小規模大学が先に受けた衝撃が数年遅れで中規模大学にも波及することは容易に想像できます。

文科省資料より

 

2-2 規模を超える困難

 共学化・募集停止を決断する女子大学、学部再編を余儀なくされる短期大学・・・・、こうした動きはもはや珍しくありません。学生募集の競争はやがて中規模の私立大学にも及び、学部新設や学費減免策のコスト負担が経営を圧迫する局面が見込まれます。

日本私立学校振興・共済事業団『令和5年度 私立大学・短期大学等 入学志願動向』より

 

2-3 学校経営の二本柱を構築する

 学納金偏重モデルを補完し、「①教育・研究」と並ぶ「②資産運用」 の二本柱を築くこと。それが人口減少時代に大学が生き残るための現実的な施策ではないでしょうか。悲観的な選択肢に感じられますが、将来訪れる蓋然性の高いリスクを前提とし、未だ猶予の残るうちから対応していくか否かは、遠くない将来における法人の姿を決定づける大きな判断であるように思われます。

 

おわりに──選ばれない未来までもを想定する

 学生募集の競争力を磨く努力は、これからも大学経営の中心にあり続けます。しかし、「選ばれない場合」を想定した資金運用の備えがなければ、人口減少という外的要因に対して無防備のまま時間を浪費することになりかねません。


 女子大学や短期大学を含む小規模大学が今経験している苦境は、規模を問わず多くの大学にとって“明日の我が身”となる可能性が高い現実です。資金的余裕がまだ残る今こそ、保有資産を戦略的に運用し、10年後・20年後の安定を先取りする経営判断が求められているかもしれません。

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