コラム

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2011.08.30

「公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~リスク・リターンの判断能力を養う(1)~

『公益法人』資産運用入門梅本 洋一

◆円建て債券運用のリスク・リターン

国債利回りの水準をみれば、円建て債券運用によって期待できる利子等のインカムの収益率は容易に推計できる。(ご参考『ブルームバーグHP 期間別日本国債利回り http://www.bloomberg.co.jp/markets/rates.html 』)
平成23年6月現在、10年国債利回りが約1.2%、20年国債が約1.9%であることを考えれば、期間10年程までの債券で運用する法人のインカム収益率はせいぜい1%前後かそれ以下、20年程までの債券で運用する場合でも2%以下というところである。
社債や仕組債を中心としたとしても、収益率全体の底上げはコンマ数%ほどであろう(専門家としては、目先のわずかな収益アップのために、元本を危険にさらす信用リスクや収入が途切れる危険のあるデリバティブリスクを引き受けるのは、リターンや商品選択の手間に見合っていないように考えてしまうのである)。
いずれにしても、現時点で、円建て債券運用での収益率の天井は最大でも2%前後というのは、多くの公益法人の債券運用の実績とも符合する。かつては、為替連動型仕組債などを円建て債券の主力に据えて、常識では考えられないような高い収益率を獲得できたことも今となっては昔話である(むしろ、現在に至っては、処分することもできない負の遺産として、仕組債の対応に苦慮している法人も少なくない)。
ということは、2%前後以上の収益率がないと事業運営ができない、あるいは心もとないという法人にあっては、円建て債券以外のリスクテイクが必然になってきているのではないか。

◆高利回りリスク資産運用のリスク・リターン

未だ少数派ではあるが、近年、外債、不動産(REIT)などの所謂、元本保証でないリスク資産を直接、あるいは投資信託を通じて間接的に取得、保有する公益法人にお目にかかるようになった。リスク資産を取得、保有することで、円建て債券運用を補完するインカム収益の引上げ、それによる事業運営の維持安定を図ろうとしているのである。事業運営の為には正当なリスクテイクといえる。

運用担当:「将来にわたる事業運営支出を見積もった場合に、現在の運用収入では安心できないので、資産の一部を外債、REITなどを投資対象とする投資信託の取得を検討しています。」

小職:「元本の償還金額が定まらない価格変動にさらすという代償を払い、外債、REITの利子、配当による収入アップを図る考え方は、むしろ健全な考え方だと思います。これまで、多くの公益法人は事業運営の為には正当なリスクテイクであってすら、公にできませんでした。ですから、仕組債という隠れ蓑の中で、インカム収入の多寡、有無についてデリバティブを使って賭けをした。その結果、インカムという本来の目的まで途切れてしまうという本末転倒な結果に陥ったのです。それを考えれば、外債、REITであれば元本は変動しても、それが原因で利子、配当が途切れることはない。公益法人本来の目的への手段としては一歩前進ではないでしょうか。ただし、利子、配当を途切れさせる危険のあるデフォルトリスク、信用リスクには細心の注意が必要なのは円建て債券と全く同様ですが。」

運用担当:「同感です。そこで外債やREITの個別銘柄を取得するのではなく、多少コストがかかっても、複数銘柄に幅広く分散投資することが出来る投資信託を通じての取得、保有を検討した訳です。」

小職:「なるほど。そう言う投資信託の使い方は全く理に適っていると思います。後はなるべく無駄に払うコストの小さい投資信託を選ばれてください。」

運用担当:「正直、投資信託の比較検討は難しいですが、推奨される投信に限定するのではなく、それ以外にも良さそうな投信を取引証券会社が扱っているか自分で見てみるのも一つですね。それにしても、毎月定額で年10%以上にもなる分配金を受け取れるので大いに助かりそうです。」

小職:「年10%? そのような投資信託であればお止めになられた方か良い。」

運用担当:「えっ?」

小職:「そのような投信は買わないことをお勧めします。分配金が現在の常識的な水準をはるかに超えています。現在の外債、REITの平均的な利回りの水準は、先進国外債で3%前後、新興国外債で5%強、国内REITで4~5%前後、海外REITでも3%強だと聞いています。つまり、それ以上を分配金として払いだしている投信は投資元本まで払いだす、所謂“タコ足分配”を行っている可能性が非常に高いのです。この先、外債、REITが急上昇でもしない限り、年10%の分配金が継続すればする程、投信の価格引き下げ圧力もかかり続けます。いずれ実勢を上回る分配水準の維持は困難になり、分配金の引き下げが起こります。もしそうなった場合に、元本部分のロス、引き下げ後の分配水準、あるいは投信見直しを行う場合のコストなどについて、法人が許容できるものであるか甚だ疑問が残る商品と言わざるを得ません。」

非常に高い利回りを提示する金融商品には、よくよく注意する必要がある。この他にも、ブラジルレアル建てや南アランド建ての債券や投信など高利回りを謳う金融商品は巷にあふれている。しかしながら、単一の通貨、特に新興国と呼ばれる国々の通貨の値動きは歴史的に見ても激しい。くれぐれも為替リスクを過小評価して、高利回りに飛びつくようなことは自重されていただきたいと願う(4、5年前の仕組債投資では、基軸通貨の米ドルがまさか100円は突破しないであろうと多くの公益法人が考えていた。過去を顧みれば、為替レートというものが如何にままならないものであるか、単一通貨に成否を賭けてしまう怖さを思い出していただけるだろう。)。

◆リスク・リターンの判断基準

多くの公益法人資産運用の現場では、実際の金融商品を前にした時に、リスクについて上手く判断できない。であるから、それを過小評価してしまう傾向が非常に強いように感じられる。目の前に提示されるリターン、利回りについて、その源泉が何で、持続性はどうか、持続出来なくなる悪条件は何か、その悪条件の実現性はどの程度か、悪条件に陥った際の最悪のダメージは、という具合にもっと注意深く考える必要がある。
そのリターンはリスクに見合うのか、そのリスクはリターンに見合うのか、あるいはそのリスク・リターンにコストは見合うのか。資産運用の世界に長く身を置く者にとっては殆ど反射的に考えてしまうほど、核心的な命題である。
判断するにはリスク・リターンについての基準が必要となるが、その基準が不十分、あるいは誤った基準であったならば、適切な判断は望めない。公益法人資産運用の現場における金融商品のリスクの過小評価などの問題は、ここに原因があるのではないだろうか。
前述したように、円建て債券運用であれば国債利回り、リスク資産運用であれば外債、REIT、株式等の平均利回りや市場平均指数の動きなどは、リスク・リターンを推し量る上で、簡便な基準の一つである。検討中の投資案件のリターンと比べてみると良い。
言い換えれば、国債利回り、外債、REIT、株式等の平均利回りや市場平均指数を上回るリターンはタダでは手に入らないと考えた方が良い。何かしらより大きなリスクを取っているはずだという前提に必ず立ってみるのである。
例えば、20年国債でしか得られないような利回りが、5年程度の債券で得られるとすれば、より多くのリスクを取っているからである。もしも、最悪、投資元本に大ダメージを受ける可能性のあるリスクだとすれば、それが追加的なリターンの恩恵に見合うかということも考えなくてはいけないのである。

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