コラム

column

2011.12.30

「公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~運用管理体制(2) 代表理事とのホットライン~

『公益法人』資産運用入門梅本 洋一

◆代表理事の役割と財政・資産運用の問題

代表理事は、公益法人の事業の編成に対して大きな影響力や責任を持つ。すなわち、その影響力と責任は当然、事業の裏付けとなる財政や資産運用にも及ぶことになる。はたして、公益法人の事業の編成と表裏一体の関係であることの多い財政や資産運用の状況についても、今日の代表理事は十分な判断材料の提供を受け、関与を深めているといえるだろうか? その為には代表理事と運用担当とのホットライン、密な連携が益々不可欠になってきているのである。
後に考察するように、これからの時代は従来の事業編成と財政・資産運用とのバランスを維持することが一層困難になる可能性が高い。したがって、代表理事らは、「運用収益の低下に甘んじる」「従来の資産運用のあり方を見直す」「財産を取り崩して事業費に充てる」「事業の選択(縮小)、見直しを行う」などという厄介な問題に対しても英断を下す気構えでいた方がよさそうである。
また、運用担当としても以上のことを想定して、代表理事とのホットライン、密な連携を平素から保っていかれることをお勧めする。

◆代表理事は既にお気付きだろうか?

リーマンショックから既に3年が経過した。あれから最近の欧州ソブリン危機に至るまでの経済・金融情勢が示唆する公益法人の財政・資産運用への影響の可能性について思いつくままに考察してみたい。代表理事の皆様らは次に挙げる今後の可能性について既にお気付きだろうか? また、次のような可能性について既にお覚悟(対策を含め)は決めていらっしゃるだろうか?
  1. 1.超低金利が今後相当長く続く可能性
  2. 2.信用不安も今後相当長く続く可能性
  3. 3.債券運用の難易度が増す。長期にわたる運用収益の低迷・漸減も避けられない可能性
  4. 4.資産の取り崩しや事業の縮小を常に視野に入れなければいけない可能性
第一に、現在の超低金利が今後相当長く続く可能性は代表理事として覚悟しておいた方がよさそうである。
今日の日本政府を含む公的財政、企業と家計を合わせた民間経済、公益法人のような円建て債券投資家にとっても、消去法的には、超低金利が今後相当長く続く方が一番望ましい状態のように思われる。
一般に、収入が頭打ちとなり伸びが期待できなくなれば、現在の支出のレベルを維持するのが難しくなる。当然、支出を削減し、債務があるのであれば返済を始めることが必要となってくる。債務を返済し続ける場合には超低金利が継続する方が望ましいのである。
現状の公的財政を含む日本経済において金利の上昇が何を意味するかは、ソブリン危機に見舞われた欧州諸国の公的財政、企業活動、家計、債券投資家への影響をみれば明らかであろう。新たな成長機会の到来に伴う金利上昇であれば話は別であるが、客観的にみて、一国全体の収入を支え、更に底上げするような成長機会が到来する可能性の方こそ如何ばかりであろうか。
第二に、国家と金融機関を含む民間企業をめぐる信用不安は今後相当長い期間続く可能性も代表理事としては認識しておいた方がよさそうである。
高水準の支出と債務のレベルを抱えながら、それらを支える次の収入源・成長機会を見出しあぐねているのは日本だけではない。所謂、殆どの先進諸国は大なり小なり同じ状況であると言える。これら日本を含む先進諸国全体の需要を満たせるような巨大な成長機会ともなると今後は益々見出しにくい中で、かつて謳歌した世界好況ゆえに引き上がった支出と債務に削減圧力が長期間にわたってかかり続けることは想像に難くない。
そんな中でも、特に収入源・成長機会に乏しい、あるいは、特に支出と債務の管理能力が弱いと見なされた経済主体から順に市場の攻撃を受け易い状況が続く。所謂、信用リスクの顕在化を招きやすい。攻撃の対象は国家から金融機関を含む民間企業にまで及ぶ事は欧州ソブリン危機で実証済みである。
すなわち、世界経済全体を支えられるような大規模な成長機会の欠乏という問題と、積み上がった巨額の支出と債務の抑制・削減という問題とも短期間では解決しそうもないことがボトルネックなのである。ゆえに、成長無き支出・債務リストラの局面では超低金利が今後相当長く続くことが、消去法的ではあるが、一番望ましいパターンであると言えるのである。しかしながら一旦、支出・債務のリストラ能力に疑念が生じると信用不安は悪性の金利上昇という形で国家から金融機関を含む民間企業までをいとも簡単に窮地に追い込む。
今後、代表理事としては以上のマクロ経済的なリスクに配慮したうえで、更にこれ以降の公益法人の財政・資産運用における具体的なリスクについても認識されておかれた方が良いと思われる。
第三に、代表理事は、公益法人の債券運用の難易度は一段と増し、利子収入等の運用収益は今後さらに長期間、低迷あるいは漸減すると構えていた方がよさそうである。
「超低金利」「信用不安」の更なる長期化の懸念は先に述べたとおりであるが、これらのことは公益法人の債券運用を一層難しくすることが予想される。例えば、少しでも運用収益を引き上げるために活用してきた社債(金融機関発行債券を含む)については信用リスクの判断が一層難しくなろう。また、為替や金利(差)を参照するような仕組債などについても、今後は見込みとは裏腹に「まさか」という水準まで市場が大きく変動することもあり得よう。いずれにしても「信用不安」を考えれば長期債への投資(特に民間債への投資)は難しくなってこよう。
また、債券運用における日本国債の位置づけについても割り切ったスタンスを定める必要があるかもしれない。日本国債の利回りが南欧国債のように利回りが急上昇(債券価格下落)するソブリン危機に陥らないとは誰も言い切れない。だたし、万が一そのような状況に陥れば、社債(金融機関発行債券を含む)の債券価格も既に同等かそれ以上に下落しており、国より早くデフォルトに追い込まれる発行体もかなり出てきているに違いないのだが。 いずれにしろ、今後の公益法人の債券運用は運用収益が長期間、低迷あるいは漸減することも否めないのであるが、事業を続けるには運用収益を諦める訳にはいかない。国債を中心でいくにしろ、社債(金融機関発行債券を含む)などを中心にいくにしろ、そのことについての代表理事としての判断を明らかにされた方が運用担当も安心かもしれない。 最後になるが、今後資産運用と運用収益が困難かつ厳しい状態が続くことが予想される以上、当然、資産の取り崩しや事業の縮小も代表理事として常に視野に入れておくことが必要になろう。

◆運用担当の役割

ここまでで紹介した経済・金融環境ならびに公益法人の資産運用・財政についての厳しい見通しはあくまで可能性の話にすぎないと思われたかもしれない。しかしながら、少なくともその可能性は決して低くないと考えられる根拠は現実に数多く存在する。
そして、このような厳しい見通しを前提にして事業と財政・資産運用のバランスを探るのは代表理事の職務であり、もはや運用担当の職務領域を超えているようにみえる。冒頭で述べたとおり、代表理事は公益法人の事業の編成に対して大きな影響力や責任を持つ。これからの時代は事業の裏付けとなる財政や資産運用についてもこれまで以上の見識と関与が必要であると思われるのである。
その為の触媒、橋渡しの役割を担うのは運用担当以外には見当たらない。運用担当が代表理事とのホットライン、密な連携を平素からキープすることは今後ますます重要になってこよう。その際には、運用担当の専門性とコミュニケーション能力が問われるのである(前回のコラム参照)。運用担当からの適切な判断材料の提供が無ければ、代表理事が財政や資産運用についても見識と関与を深めたり、様々な英断を下したりすることは望めないからである。

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