コラム

column

2012.01.30

「公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~運用管理体制(3) 資産運用委員会の設置と運営~

『公益法人』資産運用入門梅本 洋一

◆資産運用委員会への期待と現実

資産運用委員会を既に設置・運営されておられる公益法人もかなりいらっしゃることだろう。更に、できるものなら設置したいと考えておられる公益法人も含めると、資産運用委員会の必要性を認める法人は相当な数に上るのではないだろうか。 第一に、外部の資産運用有識者等が委員に加わることによって、役職員の専門性を補ったり、レベルアップを図ったりできる可能性がある。第二に、予め委員会に提案、報告を諮ることで、関係する役職員が独善的な運用判断や運用評価に陥らない為(関係する役職員への責任の集中が幾分和らげる為)の仕組みとしての期待もあろう。すなわち、このような助言とチェックとが委員会に期待される機能なのである。 しかしながら、助言とチェックが効果的に果たされている委員会はどれだけ存在しているのだろうか? 残念ながら、委員会を設置することそのものは、法人の資産運用やそのリスクマネジメントの実態、、に寄与することは無いようであるというのが結論である。

◆運用委員会の設置・運営の問題 ~5年までの債券で利回り1%???~

大規模な組織ほど委員会に割ける余裕がある傾向があるというのは事実である気がする。

担当者:「私どもの組織では資産運用委員会を設置し、更にその下部組織として、運用計画を策定する資産運用委員会、運用状況をモニタリングする資産管理員会を設置しています。これによって運用管理のPLAN-DO-SEEの一連のプロセスについて外部の各専門の委員にもより深く関与いただきながら、業務サイクルとして回してゆこうと思っています。」

小職:「すごいですね。委員会とその下部組織である二つの小委員ですか・・。」

担当者:「委員メンバーには外部の資産運用専門家にも加わっていただいています。この委員には資産運用計画の小委員会にもご参加いただき、事務局としても大いに助かっています。」

小職:「それは良かったですね。ところで委員会と小委員会の開催頻度はどれぐらいですか?」

担当者:「委員会は四半期に一度開催しています。」

小職:「年1、2回招集できるのがやっとという法人も多い中、がんばっておられますね。そのうえ小委員会までも開催するとなると更に大変ですね。」

担当者:「さすがに資産運用委員会と各小委員会は同日開催にしています。必要があれば別途招集もお願いせざるを得ないと思ってはいますが、なにせ多忙な委員を何度も招集するのは大変なので。」

小職:「それは道理ですね。ところで資産運用計画にも小委員会などで外部の専門家委員に関与していただくには年4回の限られた委員会で足りますか?」

担当者:「実際には別途電話連絡などをさせていただき助言いただかないと委員会で審議する素案すら出来上がらないですね。」

小職:「その結果出来上がったのが当年度の計画ということですね。」

担当者:「はい。基本的には10年国債利回り+1.0%を運用目標しています。当年度は2.0%に設定しました(簿価に対するインカム収入利回りの意)。しかしながら、期中に金利が大幅低下した為、運用目標は1%程度まで下げて見直さざるを得ないところです。」

小職:「10年以上の国債ラダー運用でもインカム収入の加重平均は1%を下回ります。債券等の運用期間を相当長くしなければ達成不可能でしょう。」

担当者:「当法人では5年を超える債券は取得できないことになっていますので。」

小職:「5年までの国債ラダー運用を現実的な基準に考えても0.5%の達成すら難しいでしょう。間違った場合にはロスカットする覚悟で短期高利回りの社債等その他の債券等を取得するのでもなければ・・・・。」

担当者:「だから購入条件に合う債券がないのです。これまで債券のロスカットはしたことがありませんし、今後の想定にも含まれません。」

小職:「・・・・・・」

まるで禅僧と問答をしたような後味だった。この組織(担当者?)の肝いりの資産運用委員会とその小委員会のPLAN-DO-SEEサイクルが今後いつか軌道に乗り、資産運用の計画(設定とリスク管理)について、現実の運用環境と辻褄の合う着地点に辿り着けるよう願わずにはいられない。不可思議なのは、『5年までの債券で達成するというその収益目標の水準の高さ』と『それに伴うリスクへの配慮の欠如(この場合ロスカットを想定しない)』というアンバランスについて専門家であれば違和感を覚えるはずなのに、少なくともそのような専門家が委員として関与している筈のこの法人の運用計画ではまかり通っていることである。
原因はいくつか考えられる。物理的、時間的、金銭的な理由からも専門家である委員が運用計画等の策定に関与できる余裕は限られるということであろう。年2回あるいは多くても4回程度、その他のやりとりが許されたとしてもボランティアのように限られた時間を割くのがやっとであろう。そもそも法人の資産運用について適切な助言をくれそうなメンバーを探すこと自体、非常に難しいというのが現実ではないだろうか。数多法人の運用委員会は法人関係者のみ、あるいは外部有識者といっても非常勤役員、評議員、監事の先生あたりにまで就任をお願いするのが関の山という編成になりがちではないだろうか。それなりに高名な先生にご就任いただくのはさほど困難ではないかもしれないのだが。
また、委員の適切な助言が、担当者や組織において曲解されるケースも多々ありそうである。先の法人担当者との問答の例だと、資産運用の専門家といわれる委員は5年までの債券で1%という目標設定の問題やリスクを指摘しているにもかかわらず、その真意を担当者や組織側は上手く理解できていない、あるいはそのリスクの方は伏せて都合の良い部分だけにスポットライトを当てているのかもしれない。(そう言えば、先の法人担当者はかの目標設定の結果、購入条件に適合する金融商品が無いといって済ませているので、「現在、あらゆる運用は出来るだけ行いたくない」という担当者のバイアスがかかっているのかもしれない。)

◆運用委員会の限界と運用担当の能力とのバランス

仮に、適材のメンバー編成ができたとしても、委員が法人の資産運用に関与するには様々な制約が存在するのは致し方ないことである。正確にいえば、委員は法人の為に、短い時間を割いて、助言することやチェック・審査すること以上には出来ないと思った方が良い。
素材が無ければ、委員は助言やチェック・審査はできない。結局、その素材を準備するのは運用担当者なのである。その素材は投資内容や数字だけでは不十分であることは言うまでもない。その背後にある“なぜ”や更にはご判断いただきたい“基準”についても担当が判りやすく解説しなければ表面的な基準でしか助言やチェック・審査を行えないであろう。委員会から有益な助言やチェック・審査が引き出せるか否か、それらを運用管理実務にフィードバックできるか否かは運用担当者にかかっている。
すなわち、代表理事との意思相通の場合と同様(詳細は前回のコラムを参照)、運用委員会との意思疎通においても運用担当者の専門性とコミュニケーション能力が備わっていなければ法人の資産運用管理の実態、、への寄与はあまり望めないのである。
  1. ①この法人の資産運用の目標は何か。(例えば、事業をサポートするインカム収入を優先)
  2. ②どのような制約があるのか。(例えば、満期保有目的債券と処理する為に債券の個別銘柄で運用せざるを得ない。できれば収入未達による事業縮小、財産の取り崩しは最後の手段としたいので多少のリスク(社債等などの取得)はやむを得ないと覚悟している。等)
  3. ③潜在するリスクは何が考えられるのか。(例えば、個々の債券の取得に当たっては担当の判断に大きく依存せざるを得ないことから当然、保有債券の中で格下げ等による債券価格の下落やデフォルトが起きてしまうリスク)
  4. ④運用リスクへの対処をどう考えているのか。(例えば、債券の取得制限や分散、取得後のモニター、ロスカット等)
  5. ⑤運用報告(例えば、①~④を踏まえての計画に対するレビュー)
  6. などについて、担当者自身があらかじめ考えを巡らし、筋道を立てて委員にわかりやすく状況説明し、素案A・素案B・素案C程度まで方向性を絞り込んでご審議いただく必要がある。そこまでしないと短時間の委員会は単に形式化、形骸化してしまい、そこで有益な助言やチェック・審査は行われないであろう。

効果的かつ円滑な資産運用委員会であるための必須条件は、委員の中に資産運用専門家と思しき人物が含まれることではなく、委員会を運営する運用担当側の専門性とコミュニケーション能力なのである。運用担当側に専門性とコミュニケーション能力があれば、委員は一般常識を働かせることで、説明や報告に含まれる思慮深さやロジックに抜けが無いかをチェックし、理解できない点があれば更にわかりやすい説明を乞えば良いのである。逆に、有益な助言ができる委員がいたとしても、それを生かせるか否かは、運用担当側の専門性とコミュニケーション能力次第であると言える。

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