コラム

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2011.08.30

「公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~運用管理体制(4) 運用方針書の考え方~

『公益法人』資産運用入門梅本 洋一

◆運用方針書を策定する目的とその位置付け

今後当面の資産運用の方針を策定中のA公益財団がある。このA財団には既に資産運用規程が存在している。しかしながら、普遍的かつスマートな体裁の規程は今現在の具体的な資産運用施策については語らない。現実の資産運用実務は法人の事業、収入基盤、その他環境の変化に伴って変わり、その留意事項も変わる。変化してゆく現実の資産運用実務や留意事項を語るものとして策定中の運用方針を実務の指針にしようというわけである。当然、規程と違い、年度ごとあるいは必要に応じて変更されうるという位置付けのものである。 実務指針としての運用方針書を策定してみることは、運用担当としても、実務のポイントをより絞り込めるようになったり、運用担当以外の役職員にはブラックボックスになりがちな運用実務の説明性の向上に寄与したりすることが期待できる。今後の公益法人の資産運用管理の在り方にも大いに参考になる部分があると思うのでその主な内容を紹介したい。

◆運用方針書の構造(A公益財団の例)

A公益財団で策定中の運用方針書の構造は以下のとおりである

(1)大方針

円建て債券とそれ以外の有価証券の資産配分目標とその理由などの注釈

(2)方針詳細

円建て債券のサブカテゴリー(国債、社債、その他債券)とそれ以外の有価証券(外債、株式等)の資産配分の現状と目標
  1. ① 円建て債券取得の留意事項(国債以外の債券の取得制限など)
  2. ② 円建て債券以外の有価証券(外債、不動産、株式等)取得の留意事項(投資信託等の活用とその選定基準など)
  3. ③ ①②についてのその理由などの注釈
  4. (3)リスク管理
  5. ①モニター(円建て債券を含む時価推移のモニターなど)
  6. ②ロスカット(協議⇒決済の流れ)

(4)運用収入が不足する場合の対応

まず、(1)の大方針であるが円建て債券を中核とするも、上限目標を定めたうえで、外債等も一部保有できると宣言している。その理由として法人運営安定化の為に円建て債券の収入補完、リスクヘッジの必要性の旨を注釈している。 また、(2)の方針細目では、大方針を更にブレークダウンした国債、社債、その他債券や外債、不動産、株式等の保有上限目標にあたる資産配分を示し、①で、それぞれのカテゴリーの資産取得の留意事項について列挙している。例えば、円貨による利払いや償還の確実性を勘案して国債の取得を中心とする、社債やその他債券は具体的な取得制限が明記されている。②では外債、不動産、株式では個別銘柄への直接投資ではなく、上場投資信託(ETF)等を活用する等、取得金額だけでなく、その取得要件もかなり絞り込まれる。運用実務をかなり具体的に表現しているものになっている。さらに、①②の理由などについて注釈が付けられている。 (3)のリスク管理は、円建て債券を含む時価推移の月次チェックなど現実的に対応可能な方法を具体的に記す方向で調整中ということである。特に社債・その他債券のロスカットは、格下げ等が顕在化してからでは事実上、対応困難な状態になってしまうケースもある。であるので、予防的なロスカットを含め、現実的には運用担当⇒決裁権者の裁量に依らざるを得ない旨を注釈した上で、担当者と決裁権者の連絡、協議、決済の手続きは明記するも、具体的なロスカットの基準等は定めない予定ということである。資産運用の世界に絶対が無い以上、当然、運用収入にも絶対はない。当然、運用収入目標の未達も現実的に起こりうるわけである。(4)の運用収入が不足する場合の対応では、基本財産をも取り崩すあるいは事業を縮小する(勿論、理事会の了承を得たうえで)という可能性を明示している。裏返せば、法人(現場)が理解・管理できないリスクを負ってまで運用収益を追及することはしない方針だということである。公益法人の運用現場実務の状況を勘案すれば非常に現実的かつ率直な内容であると思う。 運用実務においては、取引個々の内容については事務局&理事長の決済に委ねざるを得ないという前提となる。しかしながら、このような方針書があれば、どのような基準で、どのような取引がおこなれ、結果としての資産構成がどのような範囲に収まるかなど、それぞれ背景、理由も含め、運用の実態をかなり具体的にイメージできるものである。 このA財団では、まず事務局と理事長でこのような運用方針書を固め、これを外部有識者等も交えた運用委員会でチェックした上で、予算の理事会等で方針報告する予定だと聞いている。今後の公益法人の運用管理体制の一つの方向性としての期待を込めてこれからもフォローしてゆきたいと思っている。

◆運用方針書は形式ではなく、中身を語るもの

運用方針書は自由形式であって良いと思う。A財団の運用方針書の形式にとらわれる必要はないと思う。法人の収入構造、収支見込、運用スタイル、担当者の能力・経験、理事長らの関与、委員会設置の余裕の有無など、環境は千差万別である。形式より中身ではないかと思う。 運用方針といってもその内容を難しく考える必要はないのではないか。まずは、
  1. ① この法人の資産運用の目標は何か。(例えば、事業をサポートするインカム収入を優先)
  2. ② どのような制約があるのか。(例えば、満期保有目的債券と処理する為に債券の個別銘柄で運用せざるを得ない。できれば収入未達による事業縮小、財産の取り崩しは最後の手段としたいので多少のリスク(社債等などの取得)はやむを得ないと覚悟している。等)
  3. ③ どのような種類の金融商品をどこまで取得しようと考えているのか(具体的な取引予測が付きづらいかもしれないが、大まかなカテゴリーと取得する優先順位、取得割合なの目安、あるいはまったく予想不能であれば、その理由)
  4. ④ 潜在するリスクは何が考えられるのか。(例えば、個々の債券の取得に当たっては担当の判断に大きく依存せざるを得ないことから当然、保有債券の中で格下げ等による債券価格の下落やデフォルトが起きてしまうリスク。収入未達リスク)
  5. ⑤ 運用リスクへの対処をどう考えているのか。(例えば、債券の取得制限や分散、取得後のモニター、ロスカット、財産処分、事象縮小等について)
  6. ⑥ その他
などについて、運用担当として思うことをそのまま自身の言葉で書きだしてみてはどうだろう。それは立派な運用方針書の初校になる筈である。そこに記された内容は、間違いなくその法人の資産運用実務の姿であり、現実の資産運用についてそれ以上に雄弁に語るものは組織の中に存在しない筈である。 このように書き出された投資方針は、実は、運用担当者の専門性・経験、コミュニケーション能力(前回、前々回コラムなど参照)などと直結している。だから、最初から完璧な内容のものは出来上がらないものだと割り切って構わない。見栄えや出来、不出来さえ気にしなくてもよい。理事会や運用委員会に諮る為のものでなくても良い。書き記したものを残し、それを見直し、リバイスを続けることが重要なのである。書き続けながら、能力・経験、コミュニケーション能力の研鑽に努め、必要であれば専門家の指導を仰いでもよい(そうやって出来上がったものもまたリバイスしてゆくのであるが)。 また、前任者の記した運用方針書は後任者が業務を引き継ぎ資料の役目を果たすと思われる(勿論、後任者の運用内容は前任者のものと変わっていって当たり前であるが、改善策を講じる重要な手掛かりとなるはずである。また、経験の浅い後任者が前任者の能力と知恵を学ぶ実務教材となり得る)。 既に多くの公益法人では資産運用規程を準備されている筈である。しかしながら、規程は具体的な運用実務を語れない。現在の不確定要素の高い運用環境が相当長期間継続することも想定される今後の公益法人資産運用にとっては、運用実務を語り、引き継いでゆくことは、法人にとっても貴重な財産となろう。また、かつての仕組債投資への傾斜のように誤った方向に大きく実務の舵を切らないよう、運用担当としてより冷静な判断を導く自己チェックも重要となろう。その役割を担うのが投資方針書なのである。運用担当者の皆様には出来栄えを気にせず、とにかく書き始めてみられることをお勧めする。

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