2026.10.16
法人資産の運用を考える(95) 手取り運用益を取りこぼさない為の考察
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
保有リターンと投資家リターンのギャップ
投資信託の分析・評価会社のモーニングスターが公表した「Mind The Gap(リターンのズレにご注意)日本版2026年」は、法人の資産運用にとって示唆に富む事実を伝えている。ファンドを保有し続けた場合のリターン(トータル・リターン)と、投資家の実際の売買タイミングを反映したリターン(インベスター・リターン)との間には、しばしば差(ギャップ)が生じる。同レポートによれば、直近5年の株式型カテゴリで見ると、ETFなどオーソドックスなインデックス運用のギャップはおおむねプラス、アクティブ運用や特定のテーマ・セクターに集中するファンドの多くはマイナスにとどまった。10年でみても同様の傾向であり、市場平均に幅広く連動する運用ほど、投資家が実際に得るリターンはファンド本来の成果に近づいている。この差は、法人が採るべき運用姿勢を考えるうえで重要な手がかりとなる。
差を生む三つの投資家行動
この差を生む背景には、投資家行動の違いがある。アクティブ運用やテーマ型ファンドは、値上がり局面で人気化し、投資家がすでに価格の高くなった局面で購入に踏み切りやすい。相場が下落に転じると、含み損への不安から慌てて売却してしまう。さらに、いったん下落した後は、買い増すべきか判断に迷い、結局買い増しを見送ってしまうことも多い。この「高値づかみ」「狼狽売り」「押し目買いの見送り」という三つの行動が重なり、投資家の実質的なリターンを押し下げる。実際、ひと昔前のESGファンドや昨今のAI関連、半導体関連ファンドなどは、相場が上昇した局面で資金が集中して流入し、その後の下落局面で資金が流出するという同様のパターンが繰り返し観測されている。あるファンドの例では、設定来のトータル・リターンが年率11.9%であったのに対し、投資家が実際に得たインベスター・リターンは年率2.8%にとどまり、年率で9ポイント近い差が生じたことが報告されている。人気化した局面で資金が集中して流入し、その後の調整局面で資金が流出したことが背景にある。
基本ポートフォリオ運用が差を縮める理由
一方、ETFなどオーソドックスなインデックス運用を組み合わせて基本ポートフォリオ運用(資産配分比率のルールに沿う運用)を実施する場合では、こうした行動パターンが起こりにくい。値上がりを追いかけて購入するのではなくルールに沿って買い付けを続け、下落局面でも売却を急がず、あらかじめ定めたルールに沿って買い増しを継続しやすい。結果として、長期にわたる保有と買い増しが実現し、インベスター・リターンがトータル・リターンに近づき、時にはこれを上回る。例えばNISAを通じた個人投資家の積立インデックスファンド投資の広がりも、こうした規律的な行動を後押ししている。
法人資産の運用においても、このレポートの教訓は重い。重要なのは、直近の好調なパフォーマンスや流行のテーマに引き寄せられて商品を選ぶことではなく、下落局面でどう行動するかをあらかじめ想定して、投資方針書に明記し、運用委員会などの合意形成の仕組みを通じて担当者の裁量に委ねない体制を整えることである。市場平均に幅広く連動する低コストETFなどのインデックス運用を核に据え、市場の変動に動じずルールに沿って運用方針を実行し続けられる体制こそが、そのファンドの持つ本来の運用成果を取りこぼすことなく、法人自身の実際の手取り運用益へと変えていくのである。