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2020.12.04

学校法人の資産運用を考える(14)学校法人が(何気なく)取り置いている預貯金と、未来に対する責任についての考察~20年間の定期預金と資産運用のシミュレーション比較~

学校法人資産の運用を考える粟津 久乃

少子化が到来していることは周知の事実ですが、

米国のIHMEという研究機関の分析によれば、

世界の人口は2064年にピークに達した後、2100年まで減少が続くと予測、

日本の人口は2100年には半分になると予想されています。
⇒WEBリンク『2100年までに日本の人口は半減』

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日本は2017年→2100年に人口が1億2,836万人→5,972万人に減少し、

世界10位→38位へ大きく後退します。

生産年齢人口(15歳~65歳)については、7,100万人→2,900万人に大幅減少すると予測されています。

学校法人経営にとっての真の試練とは、現在のコロナ渦の更に後、この状況のことを指すのでは無いでしょうか。

学校運営において、80年後の2100年を見据えて運営をしていくことは非常に遠い将来にように感じるかもしれません。

しかし30年、50年という時の経過は学校法人の歴史において、あっという間に進んでいきます。

今回は、もう少し近い将来を考え、20年間、学校法人が資産運用を行うか如何で、どのような将来が変わるかを見ていきたいと思います。

 

◆なぜ、学校法人の多くは、50%程度の資産を現金・預金に置いておくのか

私学事業団の「学校法人の資産運用状況」のアンケート集計結果をみると、

学校法人のおおよそが保有している半分の資金を預貯金としていることがわかります。

(私学事業団 学校法人の資産運用状況より)

全体値の数字を見ると、45.6%が運用対象資産を現金預金に置いてあることがわかります。

この半分の現金預金を置く理由はなぜでしょう。

学校法人の経営の方に尋ねたことがあるのですが、皆さん、明確な回答はない場合が多いです。

おおよそ半分になる理由は

過去の慣習からくるもの、自分の担当でいきなり現金預金の割合を変更することを避けたいなど、以前の形式を踏襲している

根拠もないのに、会計士が現金預金を多く保有した方が良い、と指摘された

理事会で現金預金を大量に保有することを勧める人がいる

学校法人の多くがそうしている。他と違うと目立つから、横並びで。

など、現金預金を保有する論理的根拠は存在しないように見受けられます。

 

通常の法人の経営的思考からは、現金預金を最大限、取り置いたとしても、

一年の運転資金を置いておくので十分ではないでしょうか。

学校法人内部に運用のプロを雇っている大学法人などの運用資産の状況を調べると、

ほぼ1年の運転資金のみ取り置いて、あとは運用している状況が見てとれます。

建物建築費などの事業投資も現在の低金利下では、上手に借入を活用し、自己資金は積極的に運用されているようです。

1年だけの運転資金で大丈夫なのだろうか、という不安の声も上がりそうですが、

実際は、学納金も0円で、補助金も0円の年が訪れることは、

学校法人を通常に運営していたならばあり得ないでしょう。

そうなると、現金預金をこの低金利下で大量に保有する理由は、もはや無いのでないでしょうか。

◆実際の運用シミュレーション

ここから100億の運用対象資産がある学校法人の資産運用の例を見ていきましょう。

このうち、50億円を現金預金に預け続けています。残りの50億円は既に債券運用しているとして、既保有債券からの利子収入はカウントしないで、この現金預金の50億円の部分についてのみの運用収入(利子配当収入)を比較してゆきます。

 

①シミュレーション【50億円を定期預金に預ける】

・運用対象資産 100億円

・定期預金 50億円

・定期預金のうち資産運用する金額 0円

・預金利率(三菱UFJ銀行2020年11月末日時点/期間10年)0.002%

・運用利回り(仮定 キャピタルゲインは除く)       3.0%

20年後に運用収入として貯まった金額は約200万円である。

 

②シミュレーション【定期預金のうち、10億円を運用する】

・運用対象資産 100億円

・定期預金 40億円

・定期預金のうち資産運用する金額 10億円

・預金利率(三菱UFJ銀行2020年11月末日時点/期間10年)0.002%

・運用利回り(仮定 キャピタルゲインは除く)       3.0%

20年後に運用収入として貯まった金額は約8億800万円である。

 

③シミュレーション【定期預金のうち、30億円を運用する】

・運用対象資産 100億円

・定期預金 20億円

・定期預金のうち資産運用する金額 30億円

・預金利率(三菱UFJ銀行2020年11月末日時点/期間10年)0.002%

・運用利回り(仮定 キャピタルゲインは除く)       3.0%

20年後に運用収入として貯まった金額は約24億1900万円である。

 

④シミュレーション【定期預金を解約し50億円を運用する】

・運用対象資産 100億円

・定期預金 0円

・定期預金のうち資産運用する金額 50億円

・預金利率(三菱UFJ銀行2020年11月末日時点/期間10年)0.002%

・運用利回り(仮定 キャピタルゲインは除く)       3.0%

20年後に運用収入として貯まった金額は約40億3100万円である。

◆シミュレーションの纏め

4つのシミュレーションを行いました。

50億円を定期預金(0.002%)に預け続けると、複利で運用したとしても、20年後に得られる収益はたったの200万円です。

一方で、適切に資産運用を行ったとしたら、非常に大きな違いとなります。

≪収益合計の比較≫

○定期預金50億円のみ                   ⇒収益の合計 200万円

○定期預金40億円、資産運用10億円     ⇒収益の合計8億800万円

○定期預金20億円、資産運用30億円  ⇒収益の合計24億1900万円

○定期預金0円  、資産運用50億円   ⇒収益の合計40億3100万円

*上記は、運用利回り(キャピタルゲインは除く)3%の仮定ですが、2%、1%であっても同様の傾向を示します。

 

この運用結果の差額は、期間を30年、50年、100年と伸ばせば伸ばすほど、差が拡大していきます。

学校経営において、将来の「資金力」は欠かせない部分であります。

ほんの20年後の学校運営においてでさえ、自己資金を増加させておくことは、学校経営の自由度にも大きく影響します。

世界的な低金利に陥っている現在においては、運用をしない、運用をする、を決めるのは、現担当者、現理事会メンバーであります。

しかしながら、このような決断は、超長期に渡り、あるいは半永久的な教育・研究活動の提供をミッションとする学校法人の未来の「明暗」を大きく左右すると言っても過言ではありません。

日本の金利が今後も低金利で在り続けるならば、

現金預金のまま取り置き続けることの責任も、また、重いのではないでしょうか。

このように、それぞれの学校法人の現在の役職員は、

今回、例示したようなシミュレーションなども十分に考慮した上で、

ご自分自身の任期や異動サイクルを遥かに超える、

超長期のタイムスパンで意思決定をしなくてはいけない。

そういう重責を背負う仕事だといえます。

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