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2021.06.28

学校法人の資産運用を考える(17) ESG投資と受託者責任~ESG投資を行うことは、公益法人の利益を真に追うことに繋がるのか~

学校法人資産の運用を考える粟津 久乃

連日、報道にはESGに関連した話題が豊富です。

以前から、ESGというテーマはありましたが、非常に多く目にする機会が増えたのは近年です。

 

今のESGに繋がるスタート地点は2006年でした。

国連がPRI(責任投資原則)をニューヨーク証券取引所で公表し、環境問題・労働問題・企業倫理の重要性を訴えたことが始まりでした。

その後、2008年のリーマンショックを経て、短期的な利益を求める投資行動ではなく、長期的な全体利益を考えられる体制を作ろうとなり、今の、ESG投資という言葉が生まれました

環境保護, 自然保護, 生態学, エコ, バイオ, ガラス玉, フォレスト, 緑, 有機, ライブ, 地球

ESG投資は、従来の財務情報だけでなく、

環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素にも

考慮した投資を考えることを求められてきました。

このESG投資は以前からテーマとして存在していましたが、ここ数年、急にESG投資が叫ばれるようになりました。

それは、なぜでしょうか?

勿論、地球にとって、人類がこうした考えを取り入れなければならない時期にあるのかもしれません。

コロナによって、世界は少し綺麗になったようです。

飛行機が飛ぶことはなくなり、色々な工場が停止し、様々な人類の活動が制限されたことで、大気汚染は改善されたともいわれます。

これは人類にとって重要なことでしょう。

ESGに配慮することは人類にとって不可欠になっていきます。

しかし、注意したいのは、今、ESG投資が注目されることについて、真の環境に配慮した、というよりも様々な利権が絡んでいる実態があることです。

報道・金融機関の動きは、単純なクリーンな考えだけの問題ではなさそうです。

 

今回はESGいう課題を投資という観点で考え、公益法人がどう対応すべきかを検討していきましょう。

 

◆公益法人にとって受託者責任に反するか

このESG投資において、一番の課題は、受託者責任の観点から考えると

「世界の公益を考えて行うESG投資が、それぞれの公益法人にとって、

それぞれの公益のために資する財産に必ずしもプラスではない」

という点ではないでしょうか。

ESG投資は、パッシブ運用かアクティブ運用か問われれば、アクティブ運用になります。

アクティブ運用とは、マーケットの平均よりもプラスαの利益が得られると仮定して、恣意的に投資を選択していきます。

ESGという投資を勧める場合、そこにはマーケットは効率的であるはずなのに、実は隠れた+αの利益がESGという切り口に存在する、ということにならなければなりませんが、果たしてそうでしょうか。

むしろ、実は逆で利益を減らす可能性があるかもしれません。

これが公益法人にとっては受託者責任上、問題となります。

 

ESGという観点は企業として成熟した企業となるでしょう。

その観点を重要視出来る余力があり整備されています。

こうした企業においては、むしろ成熟されているので、+αは存在しづらいはずです。

おかしな話かもしれませんが、むしろ、まだESG投資の対象として、見なされていない企業の方が、+αは存在しやすいはずなのです。

例えばESGという観点をネガティブチェックとして、銃・麻薬・反社会的な企業を排除するならば、それはまだ取り入れやすいでしょう。

しかし、今の段階では、ESG投資という切り口で、

成熟しすぎた企業のみを選択し、その選定のために、

高いコストを証券会社・運用会社に払い

プラスαを得られる可能性として低いという中で、

公益法人は受託者責任を全うできるのでしょうか、というと難しい問題でしょう。

 

恣意的にESGという観点から投資を選択することは、

本当に効率性の高い運用にはなりえないと考えられている点については、

米国の年金基金の運用に関するエリサ法においても現れています。

「年金基金は金銭的な利益のみを考慮すべき」と記載し、ESG投資については採用しづらい文面が入れられたりしているのです。

 

つまり、公益法人の利益を一番に考え効率的な運用をするならば、

ESGに配慮した企業だけに絞ることは利益を減らす可能性があり

受託者責任に反するかもしれない事実を公益法人が認識する必要があります。

 

そのため、もし、公益法人にてESG投資を積極的に取り入れるならば、

資産運用効率は下がる可能性があるが、社会的に意義があるため、ESG投資を採用します、

と堂々と利益を減らす可能性があることを理事会等で説明する必要があるのではないでしょうか。

 

事実、グリーンボンドと呼ばれる環境に配慮された債券(環境債)には利回りが下がる、という調査結果もあります。

グリーンボンド(環境債)の発行は、企業側が有利な条件で資金調達できる点が優れているのであって、投資家側が利回りで得するわけではありません。

 

つまり、こういう実態を深く説明せず、テーマとして「ESG投資」に関しての売り文句だけで、金融機関から商品案内を受けるのは受託者責任上、注意が必要です。

 

米国の証券取引監督機関である、証券取引委員会(SEC)でも、金融機関のESGファンドの宣伝文句は投資家に誤解を招きかねないとまで、懸念を示しています。

 

公益法人の皆様はそれぞれ、奨学金、研究費、様々な形態で公益を目的とする事業を行っています。

その切り口は様々で、学術であったり、慈善であったり、技芸であるかもしれません。

それぞれの公益法人は特定の公益に資する事業を行いますが、

このそれぞれの決められた公益のために、基本財産・特別財産を運用し、

利益を上げ、当該事業を継続する受託者責任があります。

それぞれの公益事業のために、利益を上げることが大前提です。

 

その前提において、「ESG投資」という切り口での商売に惑わされることなく、正しく理解して、公益法人としての選択を行ってほしいと感じます。

◆公益法人の組織としての判断の難しさ

公益法人はそれぞれ専門的な運用のプロがいないケースが多いです。

そうなると、ESG投資に関しても、金融機関にお任せになる可能性があります。

ESG投資の中の基準、さらに継続してモニターしていくことができないならば、

それはコントロールの出来る商品ではないのかもしれません。

 

公益法人は長期的な事業継続を前提としています。

長期的な世界の持続性を考えたESG投資は重要です。

 

しかし、長期、20年50年など先を見据えたとき、切り口(基準)が様々で統一もされない状況で、投資をすることは、組織として継続することを難しくさせるかもしれません。

 

さらにいえば、利益を減らしても良いと考える、公益法人が存在し、

受託者責任上、理事会の承認も得て、世界のために投資をしたいと

考えられるとしても、スタートするのは、もう少し制度が固まるのを待つのでも

良いのではないでしょうか。

評価基準が定まり、ESG投資という切り口が洗練され、

投資家にとってもスクリーミングしやすくなるまでは、

まだ公益法人の受託者責任を全うすべきだと考えられます

◆実はESGに配慮されていない実態が多い

そもそも、ESG投資の切り口に投資をすると、本当にESGに配慮されているのでしょうか。

実際、資産運用業界はESG投資という切り口で商売をしようとしています

ESGを重要視した投資の売り込みに力を入れ、

2018年には世界の投資総額の10分の1だったESGの投資が、

2021年には4分の1まで増加し、

毎日2本の新しいESG投資のファンドが立ち上げられている計算になるほど、

商品が供給されています。

しかしESGという切り口への基準は未だに曖昧で、

「グリーンウォッシュ」という単語さえ生まれています

「グリーンウォッシュ」とは、企業が気候変動対策に熱心なふりをすることです。

イギリスのThe Economistが調査した結果、

世界の運用資産総額上位20位のESGファンドは平均して、

それぞれ未だに化石燃料を生産する17の企業に投資している事実もあります。

さらに、上位20のうち複数のファンドが賭博・酒類・たばこ事業に投資している実態もあり、

社会的倫理面からもESGとして相応しくない状況もあります。

しかし、これらの企業がESGファンドに組み込まれているのが実態です。

ESGという切り口は、どういうポイントで評価されるか、そこには恣意的なものが入ります

そのため、ESGの基準というものは世の中に非常に多く存在します。

どのESG基準を使用するのか、これさえも恣意的です。

ましては、本当にE,S、Gにそれぞれに配慮されている企業なのか、というと難しいでしょう。

こういう状況にまだあることを認識される必要があります。

◆重要な投資判断のポイント

勿論、我が財団は、世界的な公益も考える必要がある、

世の中を変えるインパクトを持ち続けたい、

だからこそ、自分のところの公益事業への利益が減っても、

ESG投資を行うのだ、という考えであるならば良いのでしょう。

 

真実を知った上で、投資をすること、

投資をするうえで、その投資のロジックを理解していること

これは非常に重要な事柄です。

 

英国の大学が、再生可能エネルギー等のインパクト投資ファンドの設立等を行っているようです。

(インパクト投資ファンドとは経済的リターンに加えて、社会的リターンの生成を意図して、社会事業を行うファンドへ投資をするもの)

これは大学内においての研究分野での研究成果を延ばすために、投資を行っているものであるようです。

大学内部で育成したスタートアップを支援し、大学保有の知的財産を通じて利益を生む構造を作ろうとしているのです。

このように投資案件の成長が大学の研究成果に繋がる、利益の追求の方向が同じであり、投資時、独自に内部で、判断できる人材がいて、スクリーミングを行い投資実行ができる、リスク管理できる体制ならば良いでしょう。

ただ、金融機関から売り込まれるESG投資へ参加するのではなく、是非、今一度、冷静に判断してほしいと感じます。

本来、ESG投資の根底にあるのは、短期的な運用収益を求めるのではなく、長期での資産形成を考える、長期での地球全体の利益を考える投資行動です。

ここは本当にその通りであり、重要であると弊社も感じます。

今の短期的な金融機関の利益追求の商売に、巻き込まれることなく、本当の意味で10年・20年先に公益法人が管理でき、持続可能性を考えられる投資を検討していかれてはいかがでしょうか。

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