2024.07.09
学校法人の資産運用を考える(47) 大学ファンド選定①~今、大学に求められるもの~
学校法人の資産運用を考える粟津 久乃
2024年6月14日文部科学省の有識者会議が、東北大学を国際卓越研究大学(世界最高水準の研究大学を目指す)の第一号に認定されることを発表しました。
国際卓越研究大学に選ばれるということは、大学ファンドの運用益より支援が受けられることになります。
この大学ファンドは第二の「クジラ」(第一のクジラは年金のGPIF)と呼ばれ、10兆円という巨額資金を運用することになります。
今回は、2つの側面を考察します。
1つは東北大学の選定理由から考える日本の大学に求められるもの、もう1つは大学ファンドのプロさえも難航する資産運用の実態と課題を見ていきましょう。
*大学ファンド自体の設立趣旨等は過去のコラムをお読みください
学校法人の資産運用を考える(18) 大学ファンドが目指す10兆円のファンドの実態
目次
◆大学ファンドの選定における重要なポイント
有識者会議の発表を受けて東北大学 冨永学長のコメントは下記の通りでした。
「国立大学は自己資金を運用するという発想があまりなかった。
これからは外部収入を増やして自己資金を多くし、それを運用して我々が望む教育や研究に配分したい」
と述べています。
国立大学でさえも、自己資金を運用する必要性を強く協調したコメントでした。
選定基準については論文の数(他の論文への引用数が上位10%になった本数を直近5年間で検証する)等、色々と判断がありますが、基準自体はあまり厳しいものではありません。
それよりも文科省が求めているポイントについて、文科省幹部が明言していますが、
「過去の実績だけではなく、変革の意欲とプランが重要だ」
とのことです。
論文以外として重要視された選考ポイントは、
・大学が外部資金を獲得する計画
・組織のガバナンス体制の見直し計画
・若手・女性研究者を積極的に起用できる体制
等です。
今ある大学の在り方ではなく、変革できる計画を策定できるかが求められています。
では、東北大学は具体的にどのような計画が条件を満たしていると判断されたのでしょうか。
◆実効性・具体的な計画性が認められた点
東北大学の計画のなかで評価されたポイントをいくつか具体的にみていきましょう。
・成長分野である半導体・材料科学・バイオ分野などの研究力を伸ばし、スタートアップを8倍の1500社に増やす
・教授を頂点とするピラミッド型研究体制からの転換
・若手もリーダーとなり研究できる体制の構築
・大学院生に給与を支給する
・博士課程の学生数を現在の2700人→6000人に増加させる
・国際化を推進するため、外国人研究者比率を9%→30%にし、留学生比率も2%→20%へ引き上げる
・学部段階でまずは日本人100人、留学生100人に対して入学後半年は徹底した英語教育を実施
・交換留学しやすいよう1年を4学期に分けるクオーター制の導入
・設置条件の運営方針会議については、過半数を学外委員とし、議長も学外、外国人比率を2割以上
上記のような国際的な分野への構想が全面に出された計画が出されています。
この具体的な計画を実行するためには相当な資金力が必要となることは容易に想像できますが、文科省も資金力の面で課題を東北大学に出しています。
◆財務戦略と収益拡大方策
有識者会議での選定に合わせて、東北大学に「財務戦略と収益拡大方策」については練り直すように指示が出ています。
前述の計画を実行に移すためには、相当の資金力が必要となりますが、大学ファンドから捻出される収益だけを頼りにするのではなく、大学独自に資金を獲得するとともに、成長に向けた戦略的投資を実行できる経営手腕が求められています。
現在の東北大学の経営収入は大学病院を除いて、885億円の規模です。
これを25年後に2984億円にするとしています。
自己収入比率は46.4%→73.1%に高める必要があり、なかなか達成の難しい水準です。
25年後の収益のうち、959億円は民間企業からの研究資金受け入れ額と計画したものの、これについても有識者会議より、達成困難とみられる声も出ています。
例えば収益の柱の一つとして、東北大学は産学連携と資金獲得をメインエンジンとして共創研究所という仕組みを実行しています。
学内に企業との活動拠点を用意し、大学と連携し研究を進め、既に30社の企業と共創研究所を設立しています。
これを200社に増加させ、現在の1社平均数千万円を1社平均3億円にして、200社×3億円=600億円の獲得を目指すようです。
◆大学債による資金調達
東北大学は整備資金を賄うために、23年度には100億円の大学債を発行して資金調達もしています。
100億円もの資金を40年間という長期間、1.879%という低金利で資金調達しているのです。
東京大学も大学債によって資金調達していますが、それらをすぐに使用する訳ではなく、運用もしています。
例えば年間3%で運用すれば、大学にとっては大きな収益を生むことになります。
こういった運用について、舵取りができるCFO(事業財務担当役員)を東北大学は設ける方針のようで、ここからは民間企業並みの経営・財務戦略を考える必要があると考えているようです。
◆国立大学が多額の基金を持つ脅威
そもそも日本の国立大学には多額の基金はありません。
国立大学は独自資金を貯めて運用益で大学を発展させるという観点では運営されていませんでした。
しかし、海外の大学が自己資金を増加させ、その運用資金で研究費等を補い、発展する形式を勘案すると、日本の国立大学も国際社会での地位を保つためには独自資金を保有し運用する必要性が出ています。
今回の大学ファンドの学校法人への支援は簡単に言えば、大学に多額の自己資金を保有させ運用し、財務面で独り立ちさせること、にあります。
現在、東北大学の基金はたったの9億円程度です。
しかし、ここから大学ファンドからの支援を受けて、自分たちの財政基盤を厚くし、それを運用していくことになるでしょう。
このような資金力の変化は国内における、大学法人の勢力図に大きな影響を与えるかもしれません。
◆大学が目指すべき姿
東北大の学長が述べる、改革のポイントは
「研究・教育・ガバナンス・財務」となっています。
何をするにも資金力が不可欠です。25年後を見据えて、東北大学は動き出しています。
皆様の学校経営における計画はいかがでしょうか。
23年度に大学債で100億円を調達した、東北大学は、24年度中に更に、大学ファンドより100億円程度の助成が予定されています。
たった2年で200億円を簡単に調達していくかもしれません。
現在、私学では多額の自己資金を保有し、無借金経営で運営しているところもあるでしょう。
債券の利率が高くなったから、相も変わらず、資産自体が全く膨らまない債券・預貯金ばかりを保有しているケースもあるでしょう。
しかし、これからは、超少子化の中で、文科省幹部のコメントのように「変革の意欲とプラン」が無い組織は徐々に地位を落としていくかもしれません。
国立大学が大きな基金を持つ将来を考えると、より財務戦略については見直すべきだと感じます。
学校法人にとって、今ある資産を減らす方向性などは衰退の一途を辿ります。
「財務」を危機的意識のなかで、どう捉えられるか、まさに民間企業ばりの財務運営が必須となっています。
◆次回
次回は大学ファンドの運用実績と課題について触れ、参考になる点を挙げていきたいと思います。