2026.02.15
法人資産の運用を考える(87) 値上がりした株式の売却・手続き基準(1)(法人のポートフォリオ・マネジメント例)
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
「保有する株式の値上がりが著しい。この先、下落するのではないか。一旦、売却&利益確定して、現預金で保有したい」。ある法人からこのような照会があった。
この法人は国内外の株式、REIT(不動産)、債券について、それぞれの金融市場連動型ETFを組み合わせて、ポートフォリオ(資産配分比率)を決めて運用している。
昨今の国内インフレに対応する為、意図的に、この数年間をかけて徐々に内外の株式ETFの資産配分比率を増やしてきた(積極的に株式を多く購入してきたというよりは、それらの値上がりを放置することで徐々に株式ETFの資産配分比率が増えたカタチである)。今回はこのようなケースでの法人ポートフォリオのマネジメントについて整理してみたい。
まず、「なぜ、一旦売却、利益確定して、現預金で保有しなければいけないのか?」というポイントを明らかにすることである。
「売却・現金化して事業支出・使用しなくてはいけない法人の特別な事情があるのか?」
あるいは、「株式として保有し続けることが法人の事業運営上の障害になる事情があるのか?(株式の配当利回りでは事業支出に足りない、あるいは事業支出に対して多すぎる、など)という合理的な理由があるかである。
もし、法人事業・運営にかかわる正当な理由、事情があるのであれば、株式の売却&支出や、売却&組み換えを行うべきと考える(ただし、売却する場合も、現在の資産配分比率に比例して株式以外の各資産も按分売却する方が妥当である)。
しかしながら、今回の照会のようなケースは法人事業・運営にかかわる正当な理由は無い。「保有する株式の値上がりが著しい。この先、下落するのではないか」という、
法人内の役職員の誰かの、あるいはそれら内の複数人の、感情的、相場観的な動機に由来している。
問題は、事業運営上の正当な理由も無く、だれかの感情的、相場観的な動機によって売買をしても良いのかという組織としての意思決定の質、ガバナンスの問題となる。
なぜなら「この先、下落する」などということは誰にも断定できない、事前には誰にも客観的、正当に評価できない事項である。更に、もしも売却後も上がり続けた場合や、売却した値よりも安く再購入できない場合は、法人にとって機会損失・利益損失となり、長期的なインフレ対応力を損なうことになる。
また、株式を売却して現預金にしまっては得られるはずの配当収入は減少する。このように短期的、経常的な法人運営にも影響を及ぼす。つまり、このような売買の執行は、一か八かの賭けの要素(リスク)が強まるのである(このような思慮を要しない個人投資家が自分の為だけの財産を運用する場合はOKである。また、組織でも公な運用方針として、上記のリスクも認識した上でなお、運用担当の役職員などに相場観(分析?)に基づいた売買の裁量権を認める場合(明記する場合)はOKであろう)。
また、もしも今回のケースの法人が株式資産売却⇒現預金に組み替えるという変更を行う場合でも、事前に、もともとの投資方針書や計画書に明記されたポートフォリオ(資産配分比率)の組織内の変更手続きを経てからでないと、上記のような売買執行は出来ないことは言うまでもない(変更手続きの際には、もともと事業運営上の正当な理由が無い以上、相場観(分析?)に基づいた方針、計画の変更であること、売買に伴う機会損失・利益損失リスクがあること、についても組織内での説明を要する)。