2026.03.14
法人資産の運用を考える(88) 株式の売却・手続き基準(2)(個別銘柄株式・REITなどの場合)
ショート連載コラム公益法人協会梅本 洋一
『前任が取得・保有した個別銀行株の値上がりが著しい。
しかし、組織内では当該個別株式の取得・管理基準について、担当者などの属人的判断、何となくの個別銘柄の取得 → 保有したことの既成事実化、特に個別発行体の分析、モニター、ジャッジもロクに出来ないまま成り行き任せに保有を続けることなどへの危惧、懸念を指摘する声がある。
同時に、結果的に、当該個別銘柄株式の値上がりは著しく、「もっと上がるのではないか。暫く静観しても良いのではないか」という空気もある。
個別銘柄株式の管理・売却基準についてアドバイスが欲しい』。
ある法人からこのような照会があった。
この法人はその昔、債券中心の運用だったが、日銀のマイナス金利誘導やコロナショック後の超低金利で運用収益が大幅減少した。
そこで当時の担当者が着目したのが個別銘柄株式の配当利回りだった。
例えば、銀行が発行する社債を取得するよりも銀行株を取得した方が配当利回りが高かった。
その株式を選んだ理屈も、おそらく「有名主力企業であり、潰れることは無いだろう。また、この企業であれば組織の決済も下りやすい」くらいの見立てだったろう。
そして、結果論、この投資行動は大当たりした。
この法人の運用収益も保有資産の時価評価も著しく改善した(=同時に、有名主力企業株式ばかり購入した結果、この法人の受取配当の源泉も、保有資産の時価評価に占める構成比率も、一握りの銘柄・業種が占める集中投資の状態)。
しかしながら、個別企業を分析して取得した訳でもなければ、保有中も企業の見通しをモニター、ジャッジしている訳でもない。
また、分散投資や資産構成のバランスなど考えられていない。
更に、取得した個別銘柄株式を保有し続けた場合、将来、組織がどんな(財務的+ガバナンス的)リスク抱えるかについて、思慮して個別銘柄投資したかは非常に疑わしい。
今回は個別銘柄投資のリスクマネジメントについて整理したい。
結論を言えば、
「個別株式を、評価損/評価益にかかわらず、保有し続けることに、組織として、合理的な、事業合目的な理由はあるか? 法人の目的・目標に相反するリスクはないか?」という基準に照らして冷静に判断、毅然と対処するのが望ましい。
この法人の場合、
①一部の個別銘柄や業種に集中投資となっており、インカム収入および運用元本の価値を生み出す源泉について、リスク分散が不十分である
②銘柄の取得・保有についての意思決定基準も曖昧かつ恣意的(精緻な分析、モニター、ジャッジも出来ていない)である状態
と言える。
つまり、今の状態を放置することは、いつか将来
(1)当該企業、業種の業績悪化などにより、運用成績が不安定化、持続できなくなるリスク(=法人事業・財務基盤に悪影響をもたらすリスク)、また
(2)組織としての意思決定基準が曖昧なまま、説明責任が果たせないリスク(なぜ、当該個別銘柄を取得保有し続けたのか? 集中投資の状態を放置し続けたのか? について将来、責任問題が生じるガバナンスリスク)
という2つの“爆弾”を抱え続けることを意味する。
したがって、原則として、保有する個別銘柄株式(個別REIT、個別社債も原則は同じ)は売却して、(A)より分散投資され、合理的な説明が可能な投資ツールを使って、現在の運用成績のレベルを維持しつつ将来の安定性・持続性も高めると共に、(B)組織としての意思決定基準を明確にして説明責任が果たせる状態に改善する必要がある。