コラム

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2026.06.10

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(15)】仕組み預金の扱いについて

学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南

金利上昇局面で見直したい「仕組み預金」のリスク ― 非営利法人の資産運用の視点から
本コラムの要旨

学校法人・公益財団法人などの非営利法人は、保有する「仕組み預金」の取扱いに注意が必要です。国内金利が上昇する局面では、低金利のまま満期が延長され、実質的に解約できない「塩漬け」状態に陥るリスクが顕在化するためです。金利のある世界となった今、新規で購入する判断はされにくい一方で、そうした商品を低金利時代に購入した法人にとっては、対応の難しいものとなっています。

0.はじめに

2024年のマイナス金利政策解除以降、日本の金利環境は大きく転換しました。2026年6月には政策金利が1%へと引き上げられられる見込みとの報道もされ、数十年ぶりの水準に達しています。

こうした「金利のある世界」への転換は、ある側面では運用に対する追い風をもたらす一方、低金利時代に盛んに開発・販売された金融商品の問題点を浮き彫りにします。今回はその一例として、先日の日本経済新聞でも触れられた「仕組み預金」について触れていきます。

『金融庁、「仕組み預金」にメス 誤算の金利上昇で解約トラブル相次ぐ』 日本経済新聞 電子版 2026/6/6

1.仕組み預金とは

仕組み預金とは、デリバティブ(金融派生商品)を組み込むことで、通常の定期預金よりも高い金利を提示する預金商品です。「預金」という名称から安全な商品と認識されがちですが、その実態を大づかみに言えば、預金者が銀行に対して何らかの「権利(オプション)」を売却し、その対価として上乗せ金利を受け取る取引です。

仕組み預金の代表的な類型には、次のようなものがあります。

  • 満期選択型(コーラブル預金):満期を繰り上げる、あるいは延長するかどうかを銀行側が決定できるタイプ。例えば「最短1年・最長10年」といった形で、満期時期の決定権を銀行が持ちます。
  • 二重通貨型(デュアルカレンシー預金):満期時の為替水準によって、払戻しが円ではなく外貨に切り替わるタイプ。為替リスクを預金者が負担します。

いずれのタイプにも共通するのは、「上乗せ金利の対価として、預金者が何らかの選択権を手放している」という構造です。以降本コラムでは、非営利法人の保有が比較的多いと考えられる満期選択型を想定し解説します。

2.仕組み預金の問題点

仕組み預金の問題点は、大きく3つに整理できます。

(1)原則として中途解約ができない

仕組み預金は、原則として中途解約が認められていません。やむを得ない事情で解約する場合には、組み込まれたデリバティブの時価精算(解約清算金)が発生し、元本を大きく下回る金額しか戻らない可能性があります。「預金だからいつでも引き出せる」という常識は、仕組み預金には当てはまりません。

(2)満期の決定権は銀行側にある

満期選択型では、満期を延長するか否かを決めるのは銀行です。そして銀行は、合理的な経済主体として、自行に有利な選択を行います。

市場金利が上昇した場合

銀行にとって、市場より低い金利で資金を調達し続けられるため、満期を最長まで延長するのが合理的。

預金者は、世の中の金利が上がっても低金利のまま資金が固定される。

預金者に不利
市場金利が低下した場合

銀行にとって、市場でより安く資金調達できるため、満期を繰り上げて早期償還するのが合理的。

預金者は、高い金利を長く享受したい局面で資金が戻されてしまう。

預金者の旨味は限定的

つまり仕組み預金は、「金利が上がれば長く塩漬けにされ、金利が下がれば早く返される」という、預金者にとって非対称に不利な構造を内包しているのです。

(3)上乗せ金利がリスクに見合っているか検証しにくい

上乗せ金利は、預金者が売却したオプションの対価です。しかし、そのオプションが本来いくらの価値を持つのか、提示された上乗せ金利が適正な水準なのかを、預金者側が検証することは容易ではありません。商品組成のコストや銀行側のマージンが差し引かれた後の条件であることを踏まえると、引き受けたリスクに対してリターンが見合わない可能性は否定できません。

現在の金利上昇局面で何が起きているか

低金利時代に「定期預金よりは有利」として購入された長期の仕組み預金は、足元の金利上昇により、銀行側が満期延長を選択する蓋然性が高いと言えます。市場金利が大きく上昇した今、当時の上乗せ金利は結果として相対的に魅力を失い、それでも解約するには元本割れという障壁が立ちはだかる、いわゆる「塩漬け」リスクが顕在化しやすい環境にあると言えます。

3.すでに保有している非営利法人が直面する課題

通常の定期預金や国債でも一定の利回りが確保できるようになった現在、先述のように選択権を手放してまで上乗せ金利を取りに行く合理性は乏しく、仕組み預金を新規に購入する投資家は多くないと考えられます。むしろ、こうした商品を低金利時代に購入し、現在も保有を続けている法人がこのような問題の主体でしょう。学校法人や財団法人など非営利法人にとって、この問題は次のような具体的な課題に繋がると考えられます。

  • 資金計画との齟齬(満期延長リスク):金利上昇局面では、銀行側が満期延長を選択する蓋然性が高く、想定していた時期に資金が戻らない事態が起こりえます。施設整備や事業支出の原資としてこうした資金をあてにしていた場合、計画の見直しや資産の取り崩し、あるいは何らかの手段での資金調達を迫られかねません。
  • 突発的な資金需要への脆弱性:緊急の修繕など不測の支出が生じても、仕組み預金の中途解約には元本割れという障壁があり、保有資産が実質的には「使えない資産」となってしまいます。将来の使途が予定された資金を預かる非営利法人にとって、この流動性の欠如は事業遂行そのものを脅かす要因となってしまいます。
  • 機会費用の累積:市場金利との差が開くほど、低利のまま固定されることによる逸失収益は年々積み上がります。仕組み預金に限りませんが、「元本が割れていないから問題ない」という整理は、本来得られたはずの運用収益を失い続けている実態を見落とすことに繋がります。
  • 出口判断の難しさ:解約清算金という確定損と、継続保有による機会費用(逸失収益)の比較および判断は容易ではありません。販売した銀行の説明だけに依拠せず、必要に応じて第三者的な視点での検証を行うことが望ましい場合もあるでしょう。

4.まとめ ― 「預金」と捉える前に

金利上昇局面は、これまで見過ごされてきた保有資産のリスクを点検する好機でもあります。ここまで述べてきた仕組み預金を既に保有している非営利法人にとっては、契約条件の再確認、あるいは実質的に逸失してしまった運用収益の試算、そしてそれら精査や試算結果の法人内での共有が、仕組み預金の解約、もしくは償還後の原資の運用方法を検討する一助、第一歩となるかもしれません。「預金」という名称ではなく、その中身の仕組みに目を向けることが、あしもとの環境も相まって重要になっていると考えています。

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