2011.07 『公益法人』掲載寄稿 「公益法人のための資産運用入門 4 」 ~債券運用の本当の難しさ(4)~  

PDF版⇒ 『公益法人』2011.7月号「資産運用入門」④
◆円建て債券運用という籠の中での究極の選択
 法人にとって、円建て債券運用の役割とはそもそも何であろうか。特に最近、自らにもこれを問いかけないではいられない。
円建て債券で運用することによって、安定した利子収入が見込める、円で投資元本の償還が約束される(少なくとも名目的な額面金額。発行体の信用リスク、デフォルトリスクが顕在化しない限りにおいて)。会計処理も受取利息を運用収入、投資元本を満期保有目的債券という区分に一致させることができ、管理もやりやすい。
 しかしながら、多くの法人の現実の債券ポートフォリオはそもそもの役割に適合しているのだろうか。円建て債券で運用していることで、本当に安定した利子収入が見込めているだろうか。実際には再投資リスク、すなわち5年、せいぜい10年程度の社債に集中したり、早期償還条件付きの債券が多く含まれたりすることで、利子収入がいったん途切れ、償還が頻繁に到来する不安定な内容になりがちなのではないだろうか。また、円建て債券で運用していることで、投資元本の償還の確実性は従来と同じように高いと言えるのだろうか。社債、金融業発行の債券などに偏重してしまいがちな昨今の円建て債券ポートフォリオは潜在的な信用リスク、デフォルトリスクはむしろ高まっているのではないだろうか。会計で言う運用収入と満期保有目的債券のようには割り切れないものが、現実の円建て債運用には存在するように思えてならないのである。
 以下は某法人の運用担当役員と小職の議論である。

小職:「日本国債の格下げ、デフォルト懸念(ソブリンリスク)が話題になっていますね。」
担当役員:「ますますもって日本国債の購入は躊躇してしまいます。特に長期のものは。」
小職:「では、何で運用を?」
担当役員:「目下のところ、国債の占める割合は1割以下です。それ以外の債券つまり、財投債、地方債、社債などの円建て債券がポートフォリオの殆どです。」
小職:「では、お聞きします。仮に日本国債のソブリンリスクがいつの日か顕在化したとして、それ以外の円建て債券はどうなると思いますか?」
担当役員:「・・・・・」
小職:「財投債、地方債は? その時、民間企業、本邦金融機関(あるいは先進国全般の公的債務と関連して、それらを拠点とする外資系金融機関も含む)の資金調達力、信用力はソブリン債のそれらより勝っていると言いきれるでしょうか。」
担当役員:「・・・・・」
小職:「極論かもしれませんが、資産運用のリスク管理にはこのような創造力が不可欠です。最悪を想定して、最もダメージの小さいと思われる選択をするのです。この場合、円建て債券運用という範疇における究極の選択かもしれません。」
担当役員:「発行体の利払いや償還を支える収益の源泉を考えれば、財投債、地方債などは流動性のぶんだけ国債より劣るかもしれない。国際的な収益基盤をもつ一部の民間企業が発行する債券を除けば、頻繁な資金調達を必要とする金融業の発行債では本体の調達コストやバランスシートに影響が無い筈はない。そもそもソブリン債を大量保有しているのは金融機関だからね。」
小職:「問題は法人にとってよりダメージが小さそうなのは?と、いうことです。円建て債券による運用という範疇を法人から取り去ってしまうことができない以上、仮に最悪のケースが起きたとしても最もダメージが少なく、また、そのようなソブリン危機が当然起きなかったとしても事業遂行を続けられる円建て債運用はどんな姿なのかという想像力なのです。」
担当役員:「・・・・・」
小職:「小職の示唆としては、円建て債運用という範疇に限定するのであれば『腐ってもソブリン』であるような気がします。つまり、日本国債を軽視して、それ以外の円建て債券で運用することは、損失が表面化したり、利子収入が途切れるなど不安定になるリスクがより高いと思うのです。そしてなによりも、国債以外の適切な円建て債を選別し続けることなど殆どの法人の運用担当には不可能であることは電力債でも証明されているように思われるのです。」

 極端な問答に思われたかもしれないが、この後この法人では、それまでの日本国債軽視を改め、既保有債券の償還の到来ごとに少しずつ10年~20年程度の国債を取得されていると聞く。それまでは1.5%~2.0%前後の利率確保の為に担当者がその都度苦労しながら、取得社債などの精査をしていたと言うが、10年~20年程度の国債であれば1.5%~2.0%前後の利率は年限さえ延ばせば労せずして確保できる。おまけに、所謂、民間の信用リスクに煩わされないで、利子を10年~20年程度、安定して受け取れるのである。また、10年~20年程度の国債の取得は、償還の到来ごとに少しずつ行うので、国債価格下落(金利上昇、所謂ソブリンリスクの際に予想される変動と同じ)した時でも利回りの高くなった長期国債の取得を続けることになり、ポートフォリオ全体でみた平均取得価格の引き下げや利子収入増加に寄与するものとして認識されていると言う。

◆国債ラダーポートフォリオ再考
 運用担当者は勿論、資産運用に多少の関心がおありの役員であれば、ラダーポートフォリオについては改めて説明するまでもないだろう。残存1年、2年・・・10年、あるいはそれ以上で満期時期が異なる債券の塊をそれぞれ等金額保有し、償還到来の度ごとに償還金で長期の債券取得をエンドレスに続けるという運用手法である。長期の債券取得をエンドレスに続けることで、比較的高い利子収入が長期間にわたって生み出され続けるのである。円建て債券運用をコアとする法人では既に実施している、あるいは、ラダーポートフォリオを構築中というところも少なくないだろう。
 しかしながら、10年~20年程度までの国債も多く含んだラダーポートフォリオというのはあまりお目にかからない。かわりに社債等(金融業発行債を含む)を主とした10年程度までのラダーポートフォリオの方は良く見かける。同じラダーポートフォリオでも10年~20年程度までの国債も多く含むものと社債等(金融業発行債を含む)を主とした10年程度までのものでは性質が全く異なるのである。
 第一に、現在であれば、前者では自然に生じる1.5%~2.0%前後までの利子収入は、後者では人為的に探さないと確保できない。言い換えれば、普通10年~20年程度までの債券でないと手に入らない利子収入を10年以内の債券の中に探し求めないといけない(その代償としての信用リスク等については実質的に運用担当の判断に依存する状況)。
 第二に、前者の利子収入は10年~20年程度まで継続するが、後者のそれは長続きしない。先行き不透明な時代でもある。民間発行体の信用リスクを10年以上引き受けるのは心もとないという心情は十分理解できるが、期間が短めの分、投資⇒償還⇒再投資のサイクルも速い。しかもその都度、上記の償還乗換の判断を運用担当に依存せざるを得ない。
 円建て債券を法人の資産運用のコアとするのであれば、まず国債という原点に立ち返るべきではなかろうか。残存期間さえ延ばすことができれば1.5%~2.0%前後までの利子収入は長期間確保できるのである。
このような国債による1.5%~2.0%前後までの利子収入では事業遂行に支障をきたす場合にはじめて、更なるリスク(民間の信用リスク、仕組債等のデリバティブリスクなど。これらの実質的な判断は担当者に任せる以外に無いこと、しかしながら、その責任は担当者ではなく法人として負うことを明らかにする必要)を引き受けて運用収益の増加を図ろうとするのが順序ではないかと思う。

◆円建て債運用のリスクマネジメントとは
 円建て債運用という範疇の中で考えられ得る最悪の想定は、日本国債のソブリン危機であろう。また、仮にソブリン危機が起こったら、日本国債以外の円建て債で運用していても同程度かそれ以上のダメージを受けてしまうと考えられることは先に述べたとおりである。
 もしも法人が本気で、資産運用のコアである円建て債運用の長期的なリスクマネジメントを考えるならば、円資産以外(厳密にいえば国内要因に収益やバランスシートを依存しない債券、株式、不動産など)にも資産の一部を分散する以外には無いのではないかと思う。
言うまでもなく、それは元本保証の資産ではない。皮肉な話ではあるが、元本保証の円建て債運用のリスクマネジメントには、元本保証でない外債、外国株式、外国不動産などを検討せざるを得ないのである。