2012.05 『公益法人』掲載寄稿 「公益法人のための資産運用入門 13 」 ~運用リスク管理(3) ロスカット~  

PDF版⇒ 『公益法人』2012.5月号「資産運用入門」⑬
◆社債等の個別リスク管理
 前回のコラムでは、もしも、小職が公益法人運用担当だったらどのような円建て債券運用のリスク管理を心掛けるだろうかについて想像してみた。
 「約束される利払いが途中で途切れないこと、あるいは、激減してしまわないこと」「約束される償還期日に約束の償還金額が返済されること」を円建て債券運用の命題とし、原則、償還まで持ち切ろうとする公益法人資産運用のスタイルを踏襲しなければいけないとすれば、おそらく以下のようにリスク管理するであろうと想像するのである。

(1) 極力、日本国債を中心とした債券ポートフォリオの構築に努めるであろう。(短期国債では利回りが低いのであれば、まず、可能な限り長期国債での収益アップを検討するであろう。)
(2) (1)の施策を尽くして尚、収益が不足する場合において初めて、やむなく社債等の日本国債以外の円建て債券の比率を高めるであろう。ただし、その場合においても長期、例えば5年を超える債券(個別銘柄の長期の信用リスク)の取得は躊躇される。
(3) (2)でやむなく取得した社債等の日本国債以外の債券については、個々の銘柄ごとに債券価格(時価)の時系列グラフをつけるなどモニターを継続し、①証券やその発行体が劣化しそうな予兆はないか、②最悪、万が一ロスカットしなければいけない状況に陥った場合の回収額を常に把握しておくであろう。
(4) 大前提としては、日本国債や預貯金以外の社債等を個々に取得・保有する以上、その判断が誤りであったと疑われる場合には速やかに損切り(ロスカット)し、損失の拡大を防ぐという自覚を持って運用に当たるであろう。

 すなわち、社債などを個々に取得・保有するのであれば、少なくとも時価は継続的にモニターし、最悪、債券のロスカットまで想定して、個々の債券ごとにリスク管理を心掛けるであろう。債券取得時点での高格付け、発行体の定評・知名度が高さなどは虚ろい易いものであり、最終的な利払いや償還の確実性とは無関係であると冷めた目で見るのである。

◆債券個別のロスカットについて
 運用規程において、以下に似た表現を記載している公益法人も多いことだろう。

(債券等のロスカット) 
債券等の格付け低下等により、次の各号の事態が発生した場合には、運用執行責任者は理事長と協議の上、その債券等を売却することができるものとする。
(1)格付機関(日本格付研究所、格付け投資情報センター、スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、フィッチ)全てにおいて、“A-”(または同等な格付け)以上の格付けが付与されなくなった場合
(2)格付機関(同上)のうち最低1社が、“BBB-”(または同等な格付け)未満の格付けを行った場合

 このような規程の本来意図することは、個々の債券における損失拡大を食い止めることである。にもかかわらず、現実問題として公益法人がロスカットを決断することは非常に難しいのである。
 第一に、運用担当者を含む法人組織には債券の損失確定に対しての強い抵抗感が存在するように思われる。「評価損(評価減)処理は致し方ないが、できれば実現損処理は避けたい。」、「損切り(ロスカット)すると、他の満期保有目的債券まで時価評価しなければいけなくなる。」、「ロスカットしなければならない正当な理由を組織、監査法人等に対して説明しなくてはいけない(うまく説明できない)。」「デフォルト(債務不履行)が確定してしまったわけではないので、依然として満額償還するかもしれないという期待(希望)を捨てきれない。」等の話はよく聞かれる。
 第二に、技術的にも損切り(ロスカット)の判断は難しいということである。「格下げ等が明らかになった時点では、既に債券価格が下落してしまっており、損切り(ロスカット)は益々躊躇されてしまう。」「ロスカットのタイミングなど、判断が非常に難しい(判断ができない)。」などの声もよくある。
 しかしながら、社債など個々の債券を取得・保有するスタイルの債券運用では、ロスカット出来ないと、損失の傷を益々拡大してしまうことになりかねないのである。以下、ロスカットの際の留意点を思いつくままに述べたい。

 (1)最終的に個々の債券がデフォルトするかどうかは誰にもわからない。不完全な情報を元にして相対的な判断を下す以外にない。
これは重要な要素である。つまり、ロスカットの時点では常に、デフォルトするかについて確定的な説明はできないのである。「最終的にデフォルトするかはわからないが、万が一デフォルトした場合(あるいはこのまま債券価格が下落を続け、デフォルトに近づくような場合)のダメージの大きさを天秤にかけた場合に、ここで一旦ロスカットするのが適当と考えられる」というような相対的判断しかできないのである。往々にして、より確実と思われる判断材料、役員や監査法人へのより納得性のある説明材料が揃うにしたがって、債券の損失もより大きくなっているのである。
 (2)早い段階で対応すること。後追い的な信用格付け変更に判断を依存するのは危険。
(1)のような状況で判断せざるを得ない以上、疑わしきはロスカットを厭わないというスタンスで臨むべきであろう。その際、年金基金を含む他の多くの債券投資家も信用格付けを基準とする似かよった運用ルールを設定しているということを見過ごしてはいけない。格下げが起こった場合には売りが殺到し価格が大幅に下落する、売却できない事態に陥りやすいという理由はここにある。格付けを基準とするのであれば、例えば、外資系格付機関(一般に日系格付機関より厳しく、かつ先行することが多い)のいずれか1社(全てあるいは多くの格付け機関が変更してしまってからでは遅すぎることが多い)のそれが▲▲▲を下回ってきた場合には、ロスカットするあるいはその協議に入る、上記格付け▲▲▲は“BBB-”より高いレベル(特に保有することのできる債券の下限をBBB格(投資適格下限)に設定している投資家は非常に多い)など他の債券投資家に先んじてアクションを起こせる工夫にも一考の価値がある。更に、一般に遅行する格付け変更を待たず、重大事故発生や発行体株価急落などに即して債券のロスカットするあるいはその協議に入れるという規定であれば、東電債その他に対しても速やかに対処できたであろうという法人もあるのではなかろうか。
 (3)実現損をためらわないこと。
実現損を一時計上するのは痛いことではあるが、このまま債券を保有し続けて得ることのできる収益寄与、万が一の場合のダメージの大きさなどを総合的に天秤にかけた上で、冷徹に行動すべきである。情け、恩情、希望的観測が通用しないのが資産運用の世界である。債券運用といえども例外ではない。ロスカットしないことイコール、継続保有することにより将来被るかもしれない損失リスクについても法人は全て受け入れていると言えるのかどうかを今一度確認してほしい。

 以上、勝手思いつくままに記したが、正直なところ、もし小職が運用担当だったとしても債券個別のロスカットにどれだけ対応できるかの自信は無い。ましてや、会計や決算、上司や役員等との様々な人間関係という制約の中に置かれた普通の公益法人運用担当が、個々の債券の時価、格付け、発行体株価、その他関連する諸々の金融情勢をウォッチし続けられるか。ウォッチし続けられたとして、それら情報をリスク管理やロスカットに結び付けてどこまで判断、説明できるかは非常にハードルが高い。実は、債券個々でのリスク管理は資産運用のプロでも極めて困難な作業なのである。

◆ロスカットを回避する方策の可能性
 社債等、個々の債券(証券)のロスカットの判断やその実行が公益法人として困難であるとするならば、なるべくロスカットの必要性から予め遠ざかれば良いのではないだろうか。
 一つ目の可能性は、冒頭に述べたとおり日本国債を中心とし、社債等の個別銘柄の保有割合を可能な限り抑制するというものである。そもそも日本国債をもロスカットしなければならない事態になったとしたら、日本国債以外の円建て債券は同様の難を逃れているであろうか。
 また、それでは運用収入が及ばないというのであれば、二つ目の可能性としては、資産の一部を個々の債券(証券)で運用するのを止め、上場投資信託(ETF)やファンドを使って社債や外債、不動産(REIT)などの各市場平均に近い分散投資を行い、同時に市場平均並みのインカムゲインを享受しつづけるというものである。各市場平均に近い分散投資をする金融商品であれば個別銘柄のデフォルト、信用事由による運用停止や損失確定という事態を避けるのに優れている。個別銘柄で内外の社債、不動産(REIT)を取得するリスクは躊躇されるが、何十~何百銘柄のパッケージで保有し、概ねその平均利回り(現在であれば3~5%前後。平均利回り自体は時間と共に変化してゆくが、個別銘柄のような大幅かつ急激な変動は緩和される)を享受しつづけることが期待できるとしたら検討に十分値するのではないだろうか。
 勿論、このようなリスク管理上のメリットは、最終的な回収元本が円貨で確定していない、全て時価評価することとなり満期保有目的債券等の会計上の特典は使えないというデメリットとトレードオフの関係にある。目下のところ、円建て個別債券による運用以外にはアレルギー反応を示す公益法人も少なくないだろう。
 しかしながら、正直なところ小職でさえも、債券個別にモニターしつつロスカットにどれだけ対応できるか自信が無い以上、もしも運用担当の立場であれば、極力日本国債中心の債券運用を行う。それでも運用収入が不足する場合は、内外の社債、不動産(REIT)に分散投資する上場投資信託(ETF)等を一部債券運用にミックスして、運用収入とリスク管理のバランスを図るよう、組織に働きかけるに違いないと思うのである。