2015.07 『公益法人』掲載寄稿 「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門」 ~今こそ、リーマンショック時の二の轍を踏まない為に(3)~<外債、不動産、株式の運用で運用収入や元本回収の確実性をいかに高められるか?>

PDF版はこちら⇒『公益法人』誌2015年7月号「続、公益法人実務担当者のための資産運用入門 ③」
◆ 株式、不動産(REIT)、外債運用による安定収益確保と元本保全の考え方
さて、前回コラムでは円建て債券運用における安定収益確保と元本保全の考え方についてのお話を紹介した。引き続き、財団法人Aの事例を紹介してゆきたい。今回のテーマは、株式、不動産(REIT)、外債運用でいかに安定収益確保と元本保全の確実性を高めることができるか? ということである。
小職:「以前は1.5%~2%ぐらいあったという15年~20年国公債の利回りですが、近年は0.6%~1.2%程度まで低下していますよね?」
 財団A担当者:「さすがに0.6%~1.2%程度の利回りでは、円建て債券運用において収益が安定していると言っても、この債券利息だけでは、財団の事業・運営の安定にも十分資するような水準とは言えない運用環境です。引き続き、財産運用の殆どは国公債による保守的な円建て債運用を維持しつつも、何等かのかたちで利子収入を補完してゆくことは避けられない状況ですが、リーマンショック前のように仕組債や仕組み預金には頼りたくない。そこで、当時とは別の手段を選択しています。」
 小職:「と、いいますと?」
 財団A担当者:「投資している割合は少ないのですが、外債(為替ヘッジ外債を含む)、不動産(REIT)、内外株式の価格変動リスクをあえて引き受け、代わりに外債利息、不動産分配金、株式配当金など、円建て債券利息よりも比較的高いインカム収入を安定的に受け取り、財団の事業・運営に必要な運用収益を補完しています。」
 小職:「運用収益が高いといっても、リスキーなのでは?」
 財団A担当者:「ETF(上場投資信託)などを利用して銘柄、通貨、地理的にも広域に分散投資しているので、発行体固有の信用リスクや発行条件に縛られる仕組債その他の個別銘柄債券より、ある意味でリスクはそんなに大きく感じていません。また、外債、不動産、内外株式には運用収益の補完という役割の他に、インフレや円安が起こった場合に当財団が保有する国公債のリスク分散の役割をも含められるので、広義には運用財産全体のリスクは減らせたとも考えています(勿論、外債、不動産、内外株式を保有している局所だけを見てリスキーだと指摘する人はいますが・・・)。
小職:「しかしながら、外債、不動産(REIT)、内外株式では確定利付きの運用とは根本的に違いますよね? しかも、償還期限も償還金額も決められていない資産で運用しながら、どのように安定収益と元本保全を図れるというのですか?」

◆ 「大数の法則」と外債、不動産(REIT)、内外株式の運用
財団A担当者:「大数の法則という言葉を聞かれたことはありますか?」
小職:「確率、統計のあれですか?」
 財団A担当者:「そうです。コイン投げで表の出る確率、生命保険や自動車保険で平均余命や事故率から各加入者の保険料負担を算出するときなどに使われる考え方です。個別の事象は非常に不確実性が高く予想不可能でも、たくさんのサンプルで全体的に見た場合には、一定の確率や傾向が見えてくるというやつです。一回や数回のコイン投げでは裏が続けて出ることもありますが、試行回数を増やしてゆけば、1/2の確率で表がでる。あるいは、個々の保険加入者の余命や事故可能性は全く予測不可能ですが、全体の平均余命や事故率から推し量ることで負担保険料の適正水準は算出できる。」
 小職:「外債、不動産(REIT)、内外株式の運用もそのような確率、統計で考える訳ですか?」
 財団A担当者:「その通りです。個別の外債、不動産(REIT)、内外株式の利子配当(キャッシュフロー)は予見不可能、不確実ですが、無数の銘柄の集合体である市場全体で考えれば、比較的安定した平均の利子配当利回りに収斂させて捉えることができます。日本株式の例でいえば、東電やその他電力株が突然無配に陥ったとしても、それらを含むTOPIX(東証1部上場約1800社から成る)の平均配当利回りは、さほどダメージを受ける訳ではなく、比較的安定したキャッシュフローが当面期待されます。そこでTOPIXをコピーした連動型上場投資信託(ETF)を活用すれば同様の運用効果が再現できる訳です。更に、各種外債、内外不動産(REIT)、外国株式についても市場全体をコピーしたETFなどを使えば、それぞれの市場平均前後のキャッシュフロー利回りは比較的安定的に期待できるという理屈です。」
 小職:「市場全体を模倣する分散投資でキャッシュフローの安定化を図るというイメージはなんとなく判りましたが、償還期限も償還金額も決められていない資産でどのように元本保全が図れるのでしょうか?」
 財団A担当者:「それも大数の法則、すなわち市場全体を模倣する分散投資をグローバル規模に発展させてゆくことで確率を高められると考えられます。具体的には日本の不動産市場、株式市場全体をカバー(分散投資)することで日本経済全体に近似していきます。更に海外を含む先進諸国、新興諸国全体の債券市場、不動産市場、株式市場をカバー(分散投資)してゆくことで運用ポートフォリオの構成は世界経済全体に近似してゆくことになります。市場や経済が世界全体でみて成長を止め、恒久的な縮小均衡に陥らない限り、グローバルポートフォリオが生み出す利子配当・キャピタルゲインの総和はいずれプラスの値を示すであろう、そうでないと経済が成り立たなくなるという大胆な仮説に辿り着きます。グローバルポートフォリオの長期的なリータンがどれくらいになりそうかは誰にも判りませんが、それがマイナスの値よりもプラスの値を示す確率が高いことは多くの人が経験的に判断できるのではないでしょうか。世界恐慌以来、直近のリーマンショック迄に、幾多の経済金融危機が起こり、その過程で個々にデフォルト・消滅した企業(国家さえ)も数多く有りましたが、全体としては生き残ってきたというのが世界経済の姿ではないでしょうか。したがって、世界経済を模倣したポートフォリオを構築することは最終的に元本保全に繋がる確率が最も高い戦略の一つであると考えるのです。」
小職:「シンプルに徹底的な分散投資こそ、安定収益と元本保全の為のカギであるということですか。」

◆ グローバル経済の模倣を目指す分散ポートフォリオの構築
小職:「その他に、外債、不動産(REIT)、内外株式の運用において留意されていることは?」
財団A担当者:「可能な限り、世界の債券指数、不動産(REIT)指数、株価指数などに連動するように作られているETF(上場投資信託)を活用してポートフォリオを構築します。」
小職:「その理由は?」
財団A担当者:「指数連動型であれば、投資の中身と戦略がはっきりしており、法人側からの把握・管理が比較的容易だと考えます。また、ETFは組入れ銘柄の利子配当を主な原資として配当を行う仕組みなので、一定程度のキャシュフローを運用収益として受け取りたい法人には使い勝手が良いこともメリットです。更に、ETFはその他の投資信託に比べ信託報酬が1/2~1/3以下であることも多く、運用コストもリーズナブルだと思います。基本的に、世界経済をモデルとしたポートフォリオを保有し続けることで生じる利子、配当、分配金を安定収益(キャッシュフロー)として享受し続けようという戦略なので、運用コストの高いファンドは避けたいところです。勿論、確定利回りの運用とは違いますので、為替水準が1、2割変動すれば、円換算ベースの受取利子・配当金も比例して変動するかもしれません。また、市場平均利回りや平均配当利回り自体が徐々に増減してゆけば、受取利子・配当金も連れて増減して行くことは避けられないでしょう。しかしながら、多少変動するリスクがあっても、仕組債やデフォルト債あるいは電力株のように突然利払いや配当がストップあるいは激減するリスクは、何十~何千という銘柄、通貨、地理的に分散された利子配当を源泉としている以上、極めて小さいと考えています。つまり、多少の不確実性を勘案しても、1.2%程度の20年国債の利子補完の手段として十分見合うものであると判断しています。」
いかがであろう。外債、不動産(REIT)、内外株式で運用しながら安定収益(国債等の債券利息の補完)と最終的な元本保全と達成する為に、世界の債券指数、不動産(REIT)指数、株価指数などに連動するように作られている運用コストの廉価なETF(上場投資信託)を用いて世界経済を模倣したポートフォリオを保有し続けるという戦略に、公益法人の資産運用としての新しい可能性を感じたのは小職だけであろうか。
実務的には出来るだけ広範囲に分散投資を行うというシンプルな戦略ではあるが、そこから導かれる大数の法則=確率、統計的に捉えた世界経済についての洞察は経験的にも容易に反駁しがたい蓋然性が認められるのではないだろうか。
また、個別の仕組債や仕組み預金、社債やその他特殊な債券を組み込む運用と違い、受取利息が大きく減ってしまうリスクや格下げ、デフォルトリスクとは当初から無縁である点も公益法人の資産運用としてアドバンテージのように思うのである。
次回は、日本国債等とETF(上場投資信託)などを組み合わせた財団Aのグローバル・ポートフォリオ全体のマネジメント、リスク管理をどう行っているのかについて、詳しくご紹介したい。
以上