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2026.10.22

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(19)】文科省・経産省「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を読む(1)―規程をより実効力のあるものにするために

学校法人・公益法人の資産運用入門梅本 亜南

【財団法人・学校法人のための資産運用入門(19)】文科省・経産省「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を読む(1)―規程をより実効力のあるものにするために
本コラムの要旨

2026年7月、文部科学省と経済産業省が「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を公表し、文部科学大臣所轄の学校法人の理事長宛てに通知されました。あわせて公表された実態調査では、資産運用規程を整備している学校法人が約9割に上る一方、運用目標を設定している法人は約3割、基本ポートフォリオを設定している法人は約1割にとどまります。つまり、規程という「器」は整っていても、何のために、どこまでのリスクで運用するのかという、運用管理を組織に実装するための「設計」がない状態です。ガイドブックのこの指摘は、学校法人に限らず、財団法人を含む非営利法人の運用にも当てはまるものだと弊社では考えています。

0.はじめに ― 国が示す「運用の教科書」

2026年7月22日、文部科学省と経済産業省は「大学の資産運用の促進・高度化に向けたガイドブック」を公表し、文部科学大臣所轄の学校法人には理事長宛ての通知(8高私参第8号)として届いています。

国立大学の共同運用を扱った『【財団法人・学校法人のための資産運用入門(16)】』『同(17)』で見た「資産運用立国」の流れが、私立大学を含む学校法人に向けて文書の形をとったものです。内容は多岐にわたるため、本稿では実態調査が示す「体制」の数字を取り上げ、寄附行為の「確実な方法」の解釈は、回を改めて扱います。

1.ガイドブックの背景と、調査が示す現状

ガイドブックの前提は、2040年の大学進学者数が現在より3割近く減り、学生納付金の減少で学校法人全体の収入が約1兆円減るという見通しです。インフレが預金・債券中心の運用の実質的な価値を目減りさせる以上、資産運用を収入源として位置づけ直す必要がある、というのがその問題意識です。

あわせて公表された実態調査(学校法人609法人が回答、2025年3月末時点)では、運用対象資産約10兆円のうち、運用規模100億円未満の法人では現金預金と国内債券が約8割を占めます。さらに注目したいのは、運用の「体制」についての数字です。

図表1|学校法人の資産運用体制の整備状況(609法人、2025年3月末時点)

項目整備・設定している法人の割合
資産運用の実施(定期性預金を含む)約9割
資産運用規程の整備約9割
運用方針の設定約5割
運用目標の設定約3割
基本ポートフォリオの設定約1割

出所:文部科学省・経済産業省「大学の資産運用実態把握等調査の結果」(2026年7月)より弊社作成

規程は9割の法人にあります。しかし、目指すリターンと許容リスクを定めた運用目標を持つ法人は3割、資産の構成割合を定めた基本ポートフォリオを持つ法人は1割です。ガイドブックはこれを「資産運用の基本となる方針が設定されていない学校法人が多い」と総括しています。人の面でも、運用担当責任者が運用経験を持たない法人が約4割、委員会や専門人材を含めいずれの体制も置いていない法人が27%あり、運用規模10億円未満の区分では57%に達します。

2.「規程はあるが、設計がない」という状態

弊社では、規程と設計を分けて捉えることが出発点になると考えています。資産運用規程は、何を買ってよいか、誰が決裁するかという手続きを定めます。一方、運用目的・運用目標・基本ポートフォリオは、何のために運用し、どれだけのリスクを引き受け、資産をどう組むかという設計そのものです。ガイドブックはこの三点を「資産運用の基本スタンス」と呼び、理事会が責任を持って策定すべきものと位置づけています。

設計がないまま規程だけがある状態では、何が起きるでしょうか。弊社が財団法人・学校法人の現場で見てきた限り、提案された商品が規程上「買えるか」は議論されても、自法人の目標とリスク許容度に「合っているか」は、照らすべき目標がないために議論になりません。損失が出たときの説明も、方針に照らした説明ではなく、個別商品の良し悪しの説明になります。ガイドブックが「損失が生じた場合の責任の所在が不明確となり、意思決定にも萎縮が生じやすい」と述べているのは、まさにこの構造を指しているのだと弊社では読んでいます。9割の法人が持つ規程は、商品を買う上でのフィルターにはなりますが、そのフィルターが法人の目的・目標に照らして合理的かどうかを検証し説明する根拠は、規程そのものからは得られないのです。

3.財団法人・学校法人への示唆

本ガイドブックは大学を対象としていますが、述べられている考え方は、基本財産を長期に保有する財団法人(『【財団法人・学校法人のための資産運用入門(12)】』参照)にもそのまま当てはまります。問われているのは同じ三点です。

第一に、運用目的を言葉にすることです。ガイドブックは例として、施設更新に向けた中長期の財源形成、インフレ下での購買力の維持、奨学金原資の安定確保を挙げています。目的が定まれば、目標リターンの水準と引き受けられるリスクの範囲は、そこから逆算できます。第二に、その目標から基本ポートフォリオを導くことです。ガイドブックは出発点として、短期の支払いに充てない資金の一定割合を、個別銘柄ではなく内外株式等に分散投資するファンドに振り向けることを挙げています。第三に、これらを運用方針として文書化し、理事会で決めておくことです。弊社が投資方針書(IPS)と呼んできたものは、この三点を一つの文書にしたものにほかなりません。

ガイドブックは外部の専門機関の活用も挙げていますが、同時に「外部機関にすべての判断等を委ねるのではなく、法人として自ら責任を持って方針を明確に定め」ることを求めています。

4.おわりに

今回の調査が示したのは、学校法人の多くが運用を「していない」のではなく、規程を備えて運用を「している」にもかかわらず、それを支える設計を持っていないという事実です。「規程はある」という状態にとどまることなく、目的・目標と、その実現のためのプロセスまでを明確に文書化しておくことが重要であると、弊社は考えています。次回は、預金・債券偏重の根拠とされてきた寄附行為の「確実な方法」という文言について、ガイドブックが示した整理を読み解きます。

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